実効左室充満圧 Effective LV filling pressure (医学生・研修医向け)
先日、CCUを回診中に話題になった「実効左室充満圧」について解説します。
左心室内圧に関する話です。
左心室内圧とは「左心室の壁にかかる張力」の要素です。
ラプラスの式でいうと
左心室の壁にかかる張力 ∝(左心室内圧 x 左心室径)/左心室壁厚
です。
このうち
収縮末期に「左心室の壁にかかる張力」を、後負荷
拡張末期に「左心室の壁にかかる張力」を、前負荷
といいます。
前負荷=容量負荷(左心室径)、後負荷=圧負荷(左心室内圧)ではありません。
そうではなく
後負荷 ∝ (収縮末期の左心室内圧 x 収縮末期の左心室径)/収縮末期の左心室壁厚
前負荷 ∝ (拡張末期の左心室内圧 x 拡張末期の左心室径)/拡張末期の左心室壁厚
です。
左心室内圧とは、シンプルには左心室の内圧を意味しますが
より正確には「左心室内圧ー心嚢内圧」です。
この「左心室内圧ー心嚢内圧」をTransmural LV pressureといいます(適切な日本語訳がありません)。
したがって
左心室の壁にかかる張力 ∝(左心室内圧 x 左心室径)/左心室壁厚
の式は、より正確には
左心室の壁にかかる張力 ∝(Transmural LV pressure x 左心室径)/左心室壁厚
なんです。
Transmural LV pressureとは、簡単に言えば、壁の張力(縮む力、反作用)に対抗して内腔を押し広げている力(作用)です。
特に―――
"拡張末期"のTranmural LV pressureを、実効左室充満圧(Effective LV filling pressure)といいます。
拡張末期に左心室を押し広げる力です(実効を省き、単に左室充満圧LV filling pressureとよばれることがあります)。
つまり、
実効左室充満圧 = 拡張末期の「実測左心室圧ー実測心嚢内圧」
です。
これがゼロなら左心室に血液は流入しません。
すなわち
前負荷 ∝ (実効左室充満圧 x 拡張末期の左心室径)/拡張末期の左心室壁厚
です。
左心室に血液が流入しにくい状態には、左房圧が上昇している場合と上昇していない場合があります。
左房圧(拡張末期の実測左心室圧)が上昇している場合は拡張障害 ~ 拘束障害を
左房圧(拡張末期の実測左心室圧)が正常な場合(上昇していない場合)は、Tranmural LV pressureの低下(心嚢圧の上昇や右室圧の上昇など)をルールアウトしよう・・・というわけです。
まぁ、正常な生理学的状態では、
Tranmural LV pressure ≒ の実測左心室圧
として、ほとんど問題になることはありません。
心嚢内圧は、測定するのが難しいため、そう考えるのが妥当です。
しかし。
CCUやICUに収容されているような患者さんでは、正確なTransmural LV pressureを測定(あるいは右房圧RAPで推定、少なくとも考慮)しなければならないことがあります。
特にタンポナーデや高い陽圧呼吸の病態では心嚢内圧の影響が無視できません。
「PEEPをかけると左室の後負荷が低下するので・・・」
なんていう上級医のコメントを聞いたことがありませんか?
容量負荷など他の条件に変化がなければ、PEEPにより左室の後負荷(収縮末期の壁応力)は低下します。
なぜなら
後負荷 ∝ (収縮末期のTransmural LV pressure x 収縮末期の左心室径)/収縮末期の左心室壁厚
だからです。
PEEPをかけると胸腔内圧があがり、それが心嚢内圧を上昇させるため、結果的に"左室収縮末期"のTransmural LV pressure(圧負荷)が減少し、Afterload(後負荷)が低下します。
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