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2016年5月 7日 (土)

Afterload(後負荷)とか、Preload(前負荷)とか、LV Filling Pressure(左室充満圧)とか (医学生・研修医向け)

日本の病院で回診をしていて気づいたのですが、

後負荷=圧負荷、前負荷=容量負荷と、勘違いしている医学生、研修医がたくさんいます。

違います。

出版物でも間違っていることがあります(特に日本語の「マニュアル」本)。

後負荷も前負荷も、

両方とも「圧負荷」と「容量負荷」の両方を反映します。

片方が「圧」、片方が「容量」という因子だけで計算されるわけではありません。

Afterload(後負荷)もPreload(前負荷)も、圧と容量、両方の因子によって決まる心筋のWall stress(壁応力)です。

Wall stress(壁応力)を、小学生にでもわかる言葉でいうと、心筋を引き裂こうとする力です。

生体の心筋に生じるWall stress(壁応力)は直接測定できませんが、The law of Laplace(ラプラスの法則)を使って壁張力を推定することができます。

ラプラスの法則とは・・・って?(苦笑)

 

ラプラスの法則

1.壁張力(F/m)∝ 内圧 x 半径

2.壁張力(F/m2)∝ 壁張力(F/m)/壁の厚さ(Wall thickness)

3.壁応力(Wall stress)= 壁張力(Wall tension)

1. これがラプラスの法則です(内圧は正確には内外圧差ですが、外圧がゼロであれば内圧とみなすことができます)。心筋壁にかかる壁張力は、心臓の内圧と半径(容量)によって決まることをあらわします。内圧は圧負荷pressure loadの指標、半径は容量負荷volume loadの指標になります。このように、壁張力には圧負荷pressure loadと容量負荷volume loadの両方が関与します。

2. 心臓には厚みがあるため、ラプラスの法則で求めた壁張力を便宜的に心筋の厚みで平均化します。こうすることにより、心筋の単位断面積あたりにかかっている力を考えることができます(→張力とは?)。

3.この壁張力に対抗して心筋内に生じる反作用を壁応力とします。

*注:シャボン玉のように、張力が一定に保たれる球体におけるラプラスの法則は「内圧と半径は反比例する」と解釈します。医学生理学の講義で「小さな肺胞では、そのサイズを維持するのに必要な内圧は、大きな肺胞より高い。そのため(内圧に差が生じないように)小さな肺胞から大きな肺胞へ空気が逃げる。すると小さな肺胞はますます小さくなり、最終的には虚脱してしまう。それを防いでいるのがサーファクタントで・・・」とかいう、ややこしい話を聞いたことがあるでしょう?あれです。しかし、心臓における解釈はちょっと違うので注意してください(専門家でも間違っていることがあります)。心筋の壁はシャボン玉や肺胞と違い、長さが引き伸ばされると張力が増大する弾性体です。このような弾性体におけるラプラスの法則は「張力は内圧と半径の両方に比例する」と解釈します。

 

*注:ラプラスの式によって求められる張力は心筋壁全体にかかっている「力」とイコールではありません。心筋壁は弾性体なので張力は内圧と半径の両方に比例します。たとえば内圧を一定に保ったまま心臓の半径が20%増加すると張力は20%増加します。このとき心臓全体にかかる「力」は全体として44%(1.2 x 1.2)増加するのです(半径が20%増加すると円周が20%増加するためです)。全体にかかる「力」が44%増加すれば心筋繊維一本(心筋細胞一個)あたりに生じる応力も44%増加することになります(拡張がおこっても心筋細胞 Cell(心筋繊維 Fiber)の数は変化しないと仮定しています)。もし、ここで心臓の壁厚が2倍に増加すると、どうなるでしょう。心筋全体にかかる力は44%増加していますが、心筋の単位断面積あたりにかかる力は厚みで補正され22%(44%の1/2)の増加ですむことになります。つまり心筋繊維一本(心筋細胞一個)あたりにかかる張力が44%増加しても筋原繊維あたり(単位断面積あたり)の張力の増加は22%ですみます(心筋細胞内の筋原繊維 Myofibrilの数は拡張や肥大に応じて増加し、単位断面積当たりの筋原繊維の数は一定に保たれると仮定しています)。心筋繊維 Fiber と筋原繊維 Myofibril がまぎらわしいですが、心室肥大は合目的的な反応だという話です。アメリカの病棟回診で、医学生やレジデントの基礎知識を試すのにたびたび使われる話題です(o^-^o)。

 

まぁ、ラプラスの法則は理解を助ける推定モデルにすぎませんから、その正確な理論や式を覚えるよりも、内圧と半径と壁厚の関係をおさえることのほうが大切です。

圧負荷と容量負荷は、Pressure volume loopであらわすことができます。

Cocolog_oekaki_2016_05_15_17_16

ポイントを上方にずらす負荷が圧負荷pressure loadです。

ポイントを右側にずらす負荷が容量負荷volume loadです。

圧負荷と容量負荷の両方が決まると、次の式から、心室の壁応力が決まります。

壁張力(F/m)∝ 内圧 x 半径

壁張力(F/m2)∝ 壁張力(F/m)/壁の厚さ(Wall thickness)

壁応力(Wall stress)= 壁張力(Wall tension)

内圧が、「圧負荷(Pressure load)」に相当します。

半径が、「容量負荷(Volume load)」に相当します。

 

では、

後負荷(Afterload)や前負荷(Preload)は、Pressure volume loopグラフの中にどう描かれるのでしょうか?

 

後負荷とは、「収縮末期」における心室の壁応力です。

(厳密な定義では収縮期全体にかかる壁応力の積分値ですが、実臨床では収縮末期の壁応力で代替します)

前負荷とは、「拡張末期」における心室の壁応力です。

 

実は、

後負荷(Afterload)や前負荷(Preload)をPressure volume loopから読み取るのは簡単ではありません。

 

前負荷と後負荷の違い

前述したように、後負荷と前負荷は両方とも壁応力です。

その相違点は、心収縮期における「タイミング」にすぎません。

 

後負荷、前負荷を式にあらわすと―――

後負荷 ∝ (収縮末期の左心室内圧 x 収縮末期の左心室径)/収縮末期の左心室壁厚

前負荷 ∝ (拡張末期の左心室内圧 x 拡張末期の左心室径)/拡張末期の左心室壁厚

となります。

 

このように、後負荷と前負荷は、タイミングが違うだけで、どちらも心室の圧と容量に影響をうける壁応力です。

 

では、

壁応力(Wall stress)は、Pressure volume loopの図上で、どのように書き表せるのでしょうか?

Cocolog_oekaki_2016_05_19_22_00

収縮末期の圧容量関係は青の線上に、拡張末期の圧容量関係は緑の線上にプロットできます。

つまり、後負荷は青の線上のどこかに、前負荷は緑の線上のどこかにプロットできるはずです。

 

一見すると、

Pressure volume loopは圧負荷、容量負荷、後負荷、前負荷のすべてを表示できそうです。

 

ところが―――

このPressure volume loopの図上では、壁応力(後負荷、前負荷)の「大きさ」がわかりません。

 

後負荷と前負荷は、グラフの上にはプロットできますが、その大きさがよくわからないのです。

線の上を原点から離れる方向に大きくなっていくことだけは確かだと思いますが・・・そんなのは定性的な感覚に過ぎません。

 

このように、壁応力を定量的に評価できないのが、Pressure volume loop図の欠点なんです。

 

圧負荷は、確実に縦軸の方向に増えていきます。

容量負荷は、確実に横軸の方向に増えていきます。

 

では、後負荷や前負荷の指標である「壁応力」は、どの方向に増えていくのでしょうか?

いいかえると、

Pressure volume loopにおいて、壁応力の「軸」は、この図上でどの方向に向かうのでしょう?

 

結論から先に言うと、

心筋壁の厚さを加味した壁応力(Wall stress、F/m2)をPressure volume loop図に記述することはできません。

 

しかし、心筋壁の厚さを無視した壁応力(Wall stress、F/m)なら、なんとか記述することができます。

 

下図をみてください。

 

Cocolog_oekaki_2016_05_15_17_23

 

壁張力(Wall tension)は等高線であらわされる

心筋壁の厚さを無視した壁応力(Wall stress、F/m)は、圧と容量を変数とする2変数関数ですから、このような等高線として書き表せます。

圧と容量と壁張力を軸とする3次元空間にうかぶ下図のような曲面としてもあらわすことができます。

https://remedics.air-nifty.com/photos/uncategorized/afterload_preload1.png

まぁ・・・

原点からはなれるほど、壁張力は増加するということです。

この等高線上を動く限り、壁張力は変わりません。

 

壁応力(Wall stress、F/m)は、上図の双曲線のような等高線になる・・・というイメージをつかみましょう。

このことを理解できている医学生や研修医は、めったに、いません(ときには、上級医でさえ・・・(゚ー゚;)。

 

このことがよ~くわかってくると、

後負荷afterload、前負荷preload、圧負荷pressure load、容量負荷volume loadを区別して認識できるようになってきます。

 

そして、

圧負荷pressure load、容量負荷volume loadともに変化したのに、壁張力は変わらない状態―――などという血行動態を、はっきりと理解できるようになります。

 

壁応力(Wall stress、F/m)の、ある等高線から、その右上の等高線に向かってシフトさせる負荷は、(壁厚が一定ならば・・・)後負荷Afterloadおよび前負荷Preloadの増大に働きます。

Cocolog_oekaki_2016_05_19_22_00

収縮末期の圧容量関係は青の曲線上をうごくので、収縮末期の壁張力(後負荷を決定するポイント)はすべて青の曲線上の点で表すことができます。

拡張末期の圧容量関係は緑の曲線上をうごくので、拡張末期の壁張力(前負荷を決定するポイント)は緑の曲線上の点で表すことができます。

正常な状態では、後負荷は、青の線の傾斜の大きい部分にプロットされます。この部分では、容積の変化に対する圧の変化が大きいため、圧負荷の変化がより大きく後負荷に影響します。

対して前負荷においては、正常な状態では、緑の線の傾斜が緩やかなところにプロットされます。このあたりでは、圧の変化に対する容積の変化が大きいため、容量負荷の変化が前負荷により大きく影響するのです。

したがって、正常な状態では、おおよそ、後負荷≒収縮末期の圧、前負荷≒拡張末期の容量、ということはいえるかもしれません。

しかし、少なくともイコールではありません。

これがCCUやICU管理のような病態になると、ますますイコールではなくなります。

前負荷が高度になってくると容積の変化に対する圧の変化も大きくなるため圧負荷による前負荷増大が無視できなくなってきます。

同様に、後負荷が高度になってくると、容量負荷による後負荷増大も無視できなくなるのです。

左室充満圧 LV filling pressure とは?

 

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コメント

「PEEPによって左室の後負荷が減る。transmural pressureが下がるから」という表現が理解できなくて悩んでいましたが、壁張力のところを拝読して、少しイメージできそうになってきました。「テニスボールを水中に押し込むと少し縮む」とか、「下着のゴムがよれよれになった時、その上にきつめのスパッツをはいたら、ゴムも伸びないし、ずり落ちない」みたいな感じでしょうか。

たとえが独特なため正確性に疑問は残りますが、感覚的にはそれでいいと思います(たぶん)。PEEPがかかると、左室は「あれ?今回は思ったより楽に収縮できたな!」と感じるはずです。

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