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アメリカの医学部講義 心筋梗塞を例に (医師・医学生向け)

対話型スタイルによる急性冠症候群の講義例

 

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医療関係者の方へ:一応、念のために注意しておきますが、この記事はあくまでアメリカの医学教育の「様子」を書き表したドラマに過ぎません。題材には心筋梗塞を選びましたが、日本の最新のガイドラインを反映したものではありませんので、くれぐれも、この記事の内容を実際の診療に利用しないようにしてください。実際の診療方針については必ず最新の成書、ガイドラインを確認してください。

***

講師:「あなたはERの当直中。50歳女性が胸痛を主訴に救急外来を受診します」

講師:「もっとも可能性の高い診断は何ですか?」

学生:「逆流性食道炎(GERD)です」

(注: 心臓が原因でなければ、胸痛の原因はほとんどの場合、食道炎か胃炎、十二指腸炎、胃十二指腸潰瘍などの消化管疾患です)

講師:「では、まず最初にすべき検査は?」

学生:「心電図です」

講師:「その理由は?」

学生:「まずは、見落とすと重大な疾患であるCADを除外するためです。しかも心電図は安価で安全、低侵襲な検査です」

***

講師:「急性冠症候群(ACS)とは?」

学生:「不安定狭心症、異型狭心症、心筋梗塞(STEMI、NSTEMI)の総称です。このうち特に、不安定狭心症とNSTEMIをまとめて、NSTE-ACSと呼ぶことがあります」

講師:「冠動脈疾患(CAD)とは?」

学生:「安定(労作性)狭心症と急性冠症候群(ACS)の総称です」

講師:「急性冠症候群(ACS)の診断は?」

学生:「1.症状(胸痛)、2.心電図変化、3.エンザイム(トロポニン)上昇のうち、2項目以上を満たせばACSと診断します」

講師:「では、65歳の男性が胸痛を主訴に受診します。まず考えるべき診断は・・・?」

学生:「冠動脈疾患(CAD)です。高齢などのリスクファクターがひとつでもあれば、消化器疾患ではなく、冠動脈疾患(CAD)をまず考えなければいけません」

講師:「冠動脈疾患のリスクファクターとは?」

学生:「糖尿病、高血圧、喫煙、高脂血症、ASO、肥満、45歳以上の男性、55歳以上の女性、若年発症の心筋梗塞の家族暦(男性なら55歳未満、女性なら65歳未満)、運動不足です」

講師:「冠動脈疾患の可能性を下げる病歴、診察所見とは?」

学生:「痛みが呼吸により変動する場合や、体位で変動する場合、体表から胸壁を抑えると同じ痛みが誘発される場合です」

講師:「では、胸痛が真由来ではなさそうな場合、まず、最初にする検査は何になりますか?」

学生:「やはり心電図です。胸痛が主訴である限り、まず心電図をとるという原則に変わりはありません」

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講師:「では、最初の症例に戻りましょう。患者さんにはリスクファクターはなく、心電図も正常で、病歴・診察所見も冠動脈疾患(CAD)に否定的でした。冠動脈疾患(CAD)が否定された場合、その後の方針は?」

学生:「外来で24時間食道pHモニターや上部消化管内視鏡を予定します」

講師:「念のため、アスピリンやニトログリセリンを処方しなくていいですか?」

学生:「冠動脈疾患(CAD)が否定されているので、必要ありません」

***

講師:「では、次に、リスクファクターがあるにもかかわらず、病歴・診察所見は冠動脈疾患(CAD)に否定的な場合、もっとも考えられる診断は何ですか?」

学生:「病歴・診察所見が冠動脈疾患(CAD)に否定的であれば、たとえリスクファクターが陽性であっても、最も考えられる疾患は逆流性食道炎です。病歴・診察所見はリスクファクターに優先するからです」

講師:「では、最初する検査は?」

学生:「心電図です。リスクファクターが陽性なので、同時にエンザイムをオーダーしておきます」

講師:「心電図が正常なら、冠動脈疾患(CAD)は否定できるでしょうか?」

学生:「エンザイムが正常でなければ否定できません」

講師:「どうしてですか?」

学生:「冠動脈疾患(CAD)の診断およびマネージメントプランを決定する上でもっとも重要なのは、individual presentation(現病歴と身体所見)です。病歴・診察所見から冠動脈疾患(CAD)が否定的な場合、リスクファクターが陽性でも、心電図とエンザイムの両方がが陰性であれば冠動脈疾患(CAD)は否定できるからです」

***

講師:「では、患者さんにはリスクファクターが全くないにもかかわらず、病歴・診察所見からは冠動脈疾患(CAD)が否定できない場合を考えましょう。しかし最も可能性のある疾患は何ですか?」

学生:「病歴・診察所見からは冠動脈疾患(CAD)が否定できない場合はリスクファクターがなくても、最も疑わしい疾患は冠動脈疾患(CAD)です。動脈硬化に起因しない冠動脈疾患(CAD)もあります」

講師:「では最初にする検査はなにですか?」

学生:「心電図です。ただし、病歴・診察所見からは冠動脈疾患(CAD)が否定できない場合、同時にエンザイムをオーダーします。エンザイムは1時間後、心電図は30分後にフォローします。冠動脈疾患であれば、Myoglobinなら1時間後、Troponinなら6時間後には上昇してきます」

講師:「初回の心電図とエンザイムが陰性の場合、冠動脈疾患を否定できますか?」

学生:「いいえ。病歴・診察所見からは冠動脈疾患(CAD)が否定できない場合、初回の心電図が正常でも冠動脈疾患(CAD)は否定できません。4時間後のMyoglobin、あるいは12時間後のTroponinが陰性であれば、少なくとも心筋梗塞は否定的できます。その場合でも狭心症であった可能性は否定できません」

講師:「狭心症を否定するために必要な検査は何ですか?」

学生:「狭心症は、検査で否定することができません」

講師:「では、病歴・診察所見からは冠動脈疾患(CAD)が否定できない場合、正常な心電図の意義は何ですか?」

学生:「病歴・診察所見からは冠動脈疾患(CAD)が否定できない場合、異常な心電図には意味がありますが、正常な心電図に冠動脈疾患(CAD)を否定する能力はありません。正常心電図は、リスクファクターが陰性かつ病歴・診察所見が否定的な場合にのみ、意味があります」

講師:「病歴・診察所見からは冠動脈疾患(CAD)が否定できない場合、心電図、エンザイムともに正常であれば、次のマネージメントプランは?」

学生:「病歴・診察所見からは冠動脈疾患(CAD)が否定できない場合、心電図、エンザイムがともに正常であっても狭心症の可能性が否定できません。この場合、病歴上の症状の経過に注意します。冠動脈疾患(CAD)の診断およびマネージメントプランを決定する上でもっとも重要なのは、individual presentationです。胸痛の頻度が増えてきたり、より軽い労作で誘発されるようになってきた場合は、不安定な経過と考えられますので要注意です」

講師:「では、経過が安定していれば?」

学生:「安定狭心症または異型狭心症の可能性を念頭において外来フォローアップとし、運動負荷テストを予約します。胸痛誘発時の心電図をみない限り狭心症は100%否定できないからです」

講師:「ERから退院の時点で、アスピリンやニトログリセリンを処方しなくていいですか?」

学生:「アスピリンは狭心症の症状を緩和しませんし、確定診断より前に開始して死亡率が低下するというエビデンスがありません。しかも、アスピリンには無視できない副作用があります。病歴から狭心症が否定できない場合でも、運動負荷テストの結果がでるまで処方を控えます。ニトログリセリンには症状を緩和するメリットもありますので、処方してもいいと思います。ただし低血圧などの副作用に注意します。また、ニトログリセリンが効かなくても冠動脈病変の可能性は否定できないことを銘記しておく必要があります。病歴から異型狭心症の可能性が高い場合には、ニトログリセリンよりもカルシウムブロッカーを検討します」

講師:「では、外来で施行した運動負荷テストが陽性だった場合、次のプランは?」

学生:「安定狭心症と診断し、ただちにアスピリン、ニトログリセリン、ベータブロッカーの内服を開始します。安定狭心症と診断したら、カテーテル検査を待たずに治療を開始しなければいけません」

講師:「カテーテル検査は不要ですか?」

学生:「カテーテル検査によって、複数の冠動脈病変がみつかる可能性はあります。しかし、個々の病変にカテーテル治療を追加しても、アスピリン、ニトログリセリン、ベータブロッカーによる薬物治療と比べて死亡率は改善しません。ただし、カテーテル治療によって運動耐容能は改善するという報告があります」

講師:「ニトログリセリンの薬理効果は?冠動脈の拡張ですか?」

学生:「いいえ。左心室の容量減少と、拡張末期圧の低下です」

講師:「ニトログリセリンは死亡率をさげますか?」

学生:「いいえ」

講師:「アスピリンは死亡率をさげますか?」

学生:「アスピリンは死亡率を低下させることがわかっています。その効果は時間依存性で早期に投与すればするほど高い効果が認められます」

講師:「ベーターブロッカーは?」

学生:「ベーターブロッカーも死亡率を低下させますが、アスピリンと違って効果は時間依存性ではありません。急性期を過ぎてから開始しても効果があります。また、ベーターブロッカーにはQOLを改善する効果も証明されています」

講師:「ACEインヒビターは?」

学生:「心機能が低下している症例においてのみ、死亡率を低下させることがわかっています」

講師:「カルシウムチャンネル拮抗剤は?」

学生:「死亡率を低下させる効果は認められません」

講師:「運動負荷テストで陽性だった場合、アスピリン、ニトログリセリン、ベータブロッカーの内服を開始するとして、次の検査は?」

学生:「冠動脈造影か心筋シンチです」

講師:「感度が高いのは?」

学生:「心筋シンチです」

講師:「安定狭心症の患者さんに冠動脈のカテーテル治療をすると、心筋梗塞を予防できますか?」

学生:「いいえ。カテーテル治療をしても、他の血管に動脈硬化病変がある限り、いつでも新しい心筋梗塞をおこす可能性はあります」

講師:「では、安定狭心症の患者さんにカテーテル治療をおこなう意義は?」

学生:「カテーテル治療は予後を改善しません。しかし、一時的に運動耐容能およびQOLを改善します。三枝閉塞による突然死を予防する効果もあります」

***

講師:「では、病歴・診察所見からは冠動脈疾患(CAD)が否定できず、かつ、リスクファクターも陽性の場合、最初の検査は?」

学生:「心電図です。同時にエンザイムをオーダーします」

講師:「心電図が正常だった場合、その後の管理はどうしますか?」

学生:「心電図が正常でも不安定狭心症やNSTEMIの可能性は残ります。したがって、エンザイムと心電図をフォローします。冠動脈疾患であれば、Myoglobinは1時間後、トロポニンは6時間後には上昇してきます」

講師:「その後、エンザイムが上昇してこなければ?」

学生:「4時間経ってもMyoglobinが陰性、6時間経ってもトロポニンが陰性であれば心筋梗塞は否定的といえます。しかし、病歴や診察所見が陽性の場合、心筋梗塞以外の冠動脈疾患(CAD)は否定できません。特に不安定狭心症は、心電図正常でもエンザイム正常でも否定できません」

講師:「不安定狭心症を否定するために必要な検査は?」

学生:「狭心症を検査で否定することはできません。冠動脈疾患(CAD)の診断およびマネージメントプランを決定する上でもっとも重要なのは、individual presentationです」

講師:「では、冠動脈疾患(CAD)は否定できない場合、今後のプランを決定するために必要な情報は?」

学生:「病歴上の経過です。胸痛の頻度が増えてきたり、より軽い労作で誘発されるようになってきた場合は、不安定な経過と考えます。労作性狭心症、異型狭心症の経過は基本的に安定しています」

講師:「経過が安定していれば?」

学生:「安定狭心症または異型狭心症の可能性を念頭において外来フォローアップとします」

講師:「運動負荷試験を考えますか?」

学生:「経過が安定していれば、外来で運動負荷テストを予定します」

講師:「経過が不安定な場合は?」

学生:「経過が不安定な場合、運動負荷テストは禁忌ですので、もし病歴上の経過が不安定であれば、心電図、エンザイムが正常であっても不安定狭心症の可能性を考え入院させます」

講師:「具体的には?」

学生:「ただちにアスピリンを投与し、CCUに入院させます。治療は原則としてNSTEMIに準じます」

***

講師:「一般に、女性はなぜ男性より冠動脈疾患をおこしにくいのですか?」

学生:「エストロゲンによる防御効果です。したがって閉経(平均52歳以降)やピルの内服によってリスクは増加します」

***

講師:「これまでは、すべて心電図が正常であったケースを議論してきました。では、心電図が冠動脈疾患(CAD)を示している場合は?」

学生:「リスクファクターの有無にかかわらず、冠動脈疾患を考えます」

講師:「リスクファクターの有無は考えなくてよい?」

学生:「冠動脈疾患(CAD)の診断およびマネージメントプランを決定する上でもっとも重要なのは、individual presentationです。病歴や診察所見が陽性であったり、検査が陽性であれば、その後の管理にはもはやリスクファクターの有無を考える必要はありません。リスクファクターを治療しても、次の心筋梗塞の発症リスクを低下させるだけで、今の心筋梗塞のリスクを下げないからです」

講師:「エンザイムの結果はみなくてもよい?」

学生:「心電図に冠動脈疾患(CAD)を示している場合、初回のエンザイムの結果でマネージメントが変わることはありません」

講師:「心電図上、ST上昇がみられた場合、次のステップは?」

学生:「ただちにアスピリン81mを2錠、ただちに舌下投与します。同時にカテーテルチームに連絡します」

講師:「初回のエンザイムが正常だとレポートが返ってきました。カテーテル検査は中止しますか?」

学生:「いいえ。初回エンザイムが正常でもSTEMIの可能性は否定できません。ただし、エンザイムは再検します。冠動脈疾患であれば、Myoglobinが1時間後、Troponinなら6時間後には上昇してきます」

講師:「では、カテーテル検査は正常でした。その後のエンザイムも上昇しませんでした。冠動脈疾患(CAD)は否定できるでしょうか?」

学生:「いいえ、最初の心電図に冠動脈疾患(CAD)の所見があるので、診断は異型狭心症です。カルシウムブロッカー(ジルチアゼム)を投与します」

講師:「異型狭心症の診断に必要な検査は何ですか?」

学生:「異型狭心症は正常な心臓カテーテル所見により除外診断される疾患です。つまり、異型狭心症の診断に冠動脈造影の所見が必要であるわけではありません」

講師:「異型狭心症と臨床的に診断した場合、次のマネージメントは?」

学生:「運動負荷テストを予約します」

講師:「異型狭心症と診断がついているのに、運動負荷テストをする意味は?」

学生:「異型狭心症に合併しやすい安定狭心症を除外するためです。運動負荷テストが陽性であれば、合併している安定狭心症の程度をみるために冠動脈造影の適応がでてきます」

講師:「運動負荷テストが陰性であれば?」

学生:「アスピリンとカルシウムブロッカーによる治療を継続します。運動負荷テストが陰性ならば、あっても1枝病変といわれており、CAGをしなくてもいいと思います。ただし、安定(労作性)狭心症の進行・増悪に留意しながら経過をみます。異型狭心症の場合、内服治療が有効なら、確定診断がつかないまま内服治
療を続けることになります」

 

講師:「では、心電図上ST上昇があり、カテーテルでも冠動脈の狭窄あり。その後、エンザイムも上昇してくれば診断は?」

学生:「STEMIです。あらたな左脚ブロックの出現もSTEMIとして扱います」

講師:「治療の根幹は?」

学生:「カテーテルによる冠動脈治療(PCI)または、tPAの投与です。PCIの効果は時間依存性ですので救急外来に到着後90分以内に冠動脈治療(PCI)をおこなうことが強く推奨されています」

講師:「tPAは?」

学生:「救急外来に到着後30分以内に投与することが推奨されています。tPA投与による効果は時間依存性です。胸痛発症から12時間以上経過するとtPAの効果はみられなくなります。しかし、12時間経過していても未だST上昇が続いている場合は投与を考えます。胸痛発症から24時間以上経過していれば、tPAの適応は完全になくなります。」

講師:「tPA投与に際して注意すべき点は?」

学生:「大動脈解離の除外と、禁忌の除外です。」

講師:「PCIとtPA、治療成績はどちらがすぐれていますか?」

学生:「胸痛発症から3時間以内であればPCIです。PCIの症例数が多い施設では、胸痛発症後、3~12時間でもPCIの成績がtPAを上回ります。」

講師:「Rescue PCIとは?」

学生:「Primary PCIに対して、tPA投与後におこなわれるPCIのことを言います。」

講師:「では、心電図上ST低下がみられ、エンザイムが正常であれば?」

学生:「安定狭心症または不安定狭心症です。後でエンザイムが上昇してくるNSTEMIも除外できません。後壁梗塞によるST低下はSTEMIと考えます」

 

講師:「安定狭心症と不安定狭心症はどのように区別しますか?」

学生:「病歴上の症状の経過によります。冠動脈疾患(CAD)の診断およびマネージメントプランを決定する上でもっとも重要なのは、individual presentationです。」

講師:「不安定狭心症の治療は?」

学生:「NSTEMIに準じます」

講師:「不安定狭心症・NSTEMIの治療の根幹は?」

学生:「ヘパリンです」

講師:「PCIやtPAの意義は?」

学生:「不安定狭心症・NSTEMIに対しては、PCIもtPAもヘパリン治療に比べて効果がありません」

 

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医学教育の目的は「即戦力として使える医者の養成」という点で、アメリカの医学教育と日本の医学教育とは一線を画している気がします。

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