« 薬機法(旧薬事法)とアロマセラピーの問題 | トップページ | 誰も言わないラドンと肺がんの関係 »

電解質・酸塩基平衡 USMLE対策 (医学生・研修医向け)

 

☜この記事をシェアする

 

日本で重炭酸(バイカーボネイト HCO3-)濃度を測定しようと思えば、特別に「血液ガス」をオーダーしなければなりません。

日本にいるときには、それがアタリマエだと思っていました。

ところが、アメリカでは、電解質(Na, K, Cl)をオーダーすると、同時に重炭酸(バイカーボネイト HCO3-)濃度の結果がかえってきます。

使い方に慣れると、特にER診療のような環境において、非常に重宝します。

アメリカの医師国家試験(USMLE)にも、重炭酸(バイカーボネイト HCO3-)がらみの問題がよく出題されます。

例をあげてみてみましょう。

たとえば・・・

2歳の男の子。昨日からの10回以上の水様下痢でERを受診。身体所見は頻脈気味で軽度脱水の所見です。循環不全のサインはありません。便中のロタウイルス抗原が陽性で、ウイルス性胃腸炎と診断されました。

ERで輸液をうける直前の電解質は次のとおりです。

 

☜この記事をシェアする

 

Na 136

K 3.5

Cl 100

HCO3- 6

BUN 22

Cr 0.3

 

☜この記事をシェアする

 

さぁ、血液ガス的な診断は?

1.HCO3-が異常に低いことから、代謝性アシドーシスがあることは確実です。呼吸性アルカローシスの代償だけで HCO3-がここまでさがることはありません(せいぜい15ぐらいまで)。

2.Anion gap = 136 - 100 - 6 = 30と、AGが増加しています。Gap acidosisがあることがわかります。

3.補正 HCO3- = (30 - 12) + 6 = 24。代謝性アルカローシスの合併はありません。

血液ガス的診断:高AG代謝性アシドーシス

 

☜この記事をシェアする

 

もう一症例みてみましょう。

7歳の女児。2日前から頻回の非胆汁性嘔吐と10回以上の水様下痢。やや頻脈で循環不全の兆候はあるも血圧は正常。便中のロタウイルス抗原が陽性で、ウイルス性胃腸炎と診断されました。

ERで輸液をうける前の電解質データは次のとおり。

 

☜この記事をシェアする

 

Na 140

K 4.2

Cl 108

HCO3- 20

BUN 22

Cr 0.6

 

☜この記事をシェアする

 

さぁ、血液ガス的診断は?

1.HCO3-が軽度低下しています。最初の症例のように代謝性アシドーシスでしょうか。呼吸性アルカローシスに対する代償かもしれませんが、病歴から判断すれば代謝性アシドーシスでしょう。

2.AG = 140 - 108 - 20 = 12。AGは正常です。

3.AG正常ですから、補正重炭酸の計算は不要です。

血液ガス的診断:正AG代謝性アシドーシス

症例1よりアシドーシスの程度はかなり軽いですね。軽症なんでしょうか?いいえ。1例目は軽度の脱水症例でしたが、このケースはPALSでいう「Compensated Shock」の状態です(血圧が正常なショックです)。このようにアシドーシスの程度と疾患の重症度は必ずしも相関しません。このケースは、代謝性アシドーシスの程度をマスクしている何かが隠れていると考えるべきでしょう。

女の子はERから病棟にあげられ、輸液による治療が開始されました。病棟では問題なく経過し、翌朝の電解質データは次のとおりです。

 

☜この記事をシェアする

 

Na 140

K 3.8

Cl 94

HCO3- 24

BUN 14

Cr 0.6

 

☜この記事をシェアする

 

女児を担当している医学生は、「入院後、嘔吐もなく下痢も2回の軟便のみ。臨床症状も落ち着き、 HCO3-も正常化したので脱水は軽快したと思う。輸液を中止し経口摂取にきりかえようと思う」といいます。

さぁ、あなたの判断は?

1.HCO3-は正常化しています。

2.AG = 140 - 94 - 24 = 22と、AGが増加しています。

3.補正 HCO3- = (22-12) + 24 = 34と、代謝性アルカローシスが合併しています。

血液ガス的診断:高AG性代謝性アシドーシス+代謝性アルカローシス

Na - Cl = 46と大きく開いています。一般に、Na - Cl = 36が正常で、この差が36より小さかったり大きかったりする場合は必ず何か問題があります。もちろん、36でも異常なこともあります(症例1)。特に、差が大きく開いている場合にはろくなことはありません。このケースでは最初のNa- Cl = 32でしたが、今朝は46!これだけで「何かおかしい!」と思わなければいけません。 HCO3-が「正常化」していることにだまされてはいけません。

AGを計算してみると増加しており、まだまだしっかりしたアシドーシスがあります。補正重炭酸も34と高く、代謝性アルカローシスを合併しています。この代謝性アルカローシスは嘔吐による胃液(クロール)の喪失によるものではなく、脱水によって2次性に尿中に重炭酸が排泄できなくなったためでしょう。このタイプの代謝性アルカローシスには、NH4Clによるクロールの補充や、ダイアモックスによる重炭酸の排泄促進は効果がありません。必要なのは輸液です。専門書にはClの入った輸液を使うとあるかもしれませんが、血管内脱水を補正できればなんでもかまいません。要は、輸液によって腎血流が増えさえすれば、たまった重炭酸は勝手に尿中にでていき、アルカローシスは改善されます。

このケースで、このまま経口摂取をすすめるとどうなるでしょうか?このGap acidosisはケトーシスによるものと思われますが、この状態では無理やり経口摂取をすすめても、多くの場合、結局、食事はすすまず、また嘔吐しはじめます。ケトーシスが強い場合には、たとえ嘔吐がなくとも経口摂取は控えめにし(水分摂取はOK)、ブドウ糖を含む輸液をしっかり与えましょう。

以上、アメリカの医師国家試験(USMLE)にもよく出題される、電解質と重炭酸(バイカーボネイト HCO3-)の臨床的有用性に関する話でした。

 

☜この記事をシェアする

 

補正 HCO3- = (AG - 12) + HCO3- = Na - Cl - 12

 

☜この記事をシェアする

 

« 薬機法(旧薬事法)とアロマセラピーの問題 | トップページ | 誰も言わないラドンと肺がんの関係 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 薬機法(旧薬事法)とアロマセラピーの問題 | トップページ | 誰も言わないラドンと肺がんの関係 »