薬機法(旧薬事法)とアロマセラピーの問題
薬機法に違反して商売をおこなうと薬機法違反で告発されるだけでなく、刑法違反(犯罪)として刑事訴追を受ける可能性もあります。よくよく注意しましょう。
あまり知られていませんが、フランスにおいてはアロマセラピーは医療行為であり、アロマオイルは医師によって処方される「医薬品」です。
関連記事:エッセンシャルオイルとアロマオイルの違い
最近、このフランス型のアロマセラピーが、「アロマメディシン」あるいは「メディカルアロマセラピー」という名のもとに、日本でも急速に普及しつつあり、さまざまな法的な問題をおこしつつあります(後述)。
一方、たとえばイギリスにおいては、アロマオイルは医薬品というより、その香りや感触を楽しむリラクゼーションツールとして使用されています。
従来より日本に普及しているアロマセラピーは、このイギリス型のリラクゼーション的なものが主流で、業界では、このリラクゼーション的なアロマセラピーを「エステティックアロマセラピー」とよび、フランス型のアロマセラピーと区別することもあるようです。
今回の記事の内容は、最近急速に普及しつつあるフランス型のアロマセラピーにまつわるいくつかの新しい問題をとりあげます。
まず第一に・・・
「セラピー」という言葉にまつわる問題です。「セラピー」とは「治療」を意味し、日本で「セラピー」という言葉を使用するとフランス型にせよイギリス型にせよ、それだけで薬機法の規制対象になりえます。注意が必要です。
また、アロマオイルは日本ではあくまで「雑貨」扱いであることに注意が必要です。
フランス製のアロマオイルはエッセンシャルオイル(精油)と呼ばれるもので、非常に純度が高く、フランス国内では「医薬品」ですが、日本では同じものが「雑貨」扱いとなります。
イギリスで発展したリラクゼーション目的のアロマオイルはアロマオイル(合成油)と呼ばれ、純度が低く、これも日本国内では「雑貨」です。
日本においては、エッセンシャルオイル(精油)もアロマオイル(合成油)も、いずれも「雑貨」扱いになります。
「雑貨」であれば、それ自体は薬機法の対象ではなさそうな気がします。
しかし、医学的な効能効果を謳うと、たとえ「雑貨」であっても薬機法の規制対象になってしまいます。
・‥…━━━☆
参考:薬品・食品のおおまかな分類
1.医療用医薬品、2.一般用医薬品(OTC)、3.医薬部外品、4.化粧品、5.雑貨・雑品、6.機能性食品(サプリメント)、7.栄養機能食品(ビタミン・ミネラル類)、8.特定保健用食品(トクホ)、9.一般食品
オイルを「雑貨」として輸入し、販売する場合、許可や届出は不要です。
しかし、「雑貨」として輸入されたオイルを「医薬品」として販売すると、薬機法の違反になります。
「雑貨」としてのオイルの用途は、せいぜいその香りを楽しむ程度(「ドイツ型」とよばれることもあります)に限られるのです。
フランスでは、まったく同一のエッセンシャルオイル(精油)が、医師の指示のもとに内服されたり、創傷部位に塗布されたり、「医薬品」として使用されているとしてもです。
それを見た日本人が、日本で同じことをすると違法になります(ただし、医師免許を有していれば可能です)。
日本ではエッセンシャルオイル(精油)はあくまでも「雑貨」扱いです。
「雑貨」を内服したり、傷に塗るようなものとして販売すれば、薬機法違反になります。
内服や傷に塗るほどではなくても、美容やマッサージのために、皮膚に塗布するような用い方ではどうでしょうか。
実は、皮膚に塗るだけでも「雑貨」の範疇をこえていると判断されます。
ある国で医薬品として認可されるためには、国ごとに、臨床治験を終えることが必要です。
臨床治験がされていないものを医薬品として使うのは医師であれば可能ですが、それでも倫理委員会を通したり、かなりのプロセスを踏んで使用しなければいけません。
ただし・・・
個人で購入したアロマオイルを、自分でマッサージ店に持ち込み、自分だけに利用する場合は微妙です。
マッサージの国家資格を持つ人にお願いして、「このオイルを使ってマッサージしてください」と依頼すると・・・
このあたり、法的整備が必要だと思います。
万が一、重大な副作用がでたときに、誰が責任をとるのか?ということです。
日本の薬機法が認めているエッセンシャルオイル(精油)やアロマオイルの用途は、現時点では、その香りを空気中に漂わせて楽しむ程度に限られているのです。
ところで・・・
日本に輸入されたエッセンシャルオイル(精油)の中には、一部、「化粧品」としての効能が認可されているものがあります。
このように「化粧品」としての認可があれば、香りを楽しむ「雑貨」のレベルを、少しだけ超えることができます。認められた用法にしたがって皮膚や毛髪につけたり、美容的な使用を宣伝・広告し、販売することが可能になります。
ただし、エッセンシャルオイルを「化粧品」として輸入・販売する場合には、「化粧品製造販売業許可」が必要です(すでに国内で流通しているエッセンシャルオイル(化粧品)を仕入れて、化粧品として販売する場合にはこの許可はいりません)。
また、化粧品である限り、あくまでも皮膚や髪につけてその見た目や感触による美容効果といったところが目的であるべきです。
化粧品であるのに、「飲むと腹痛に効きます」というような「医薬品」的な広告をすれば、やはり、薬機法の違反になります。
フランスでは、まったく同じものが腹痛の治療に使われているとしても、です。
「化粧品」の場合、せいぜい「皮膚もしくは毛髪を健やかに保つ作用があります」という程度が、広告の限界でしょう。
「皮膚に塗ると腹痛に効きます」などというのは完全にアウトです。
「化粧品」としてのエッセンシャルオイル(精油)を「内臓疾患に効果がある」などとして人体に塗布するのは、どうみても化粧品としての用法を逸脱しています。「化粧品」の効能は、あくまで、美容効果に限定されるべきです。
健康上の「~に効く」「~の効果がある」というセリフ = 薬機法違反
と覚えておくといいでしょう(この例外は医師だけです)。
さらに・・・
最近、日本において、「アロマセラピスト」とよばれる人たちがエッセンシャルオイル(精油)をつかって、マッサージを施術していることが問題になりつつあります。これは薬機法だけではなく医師法にも抵触しています。
まず第一に、「マッサージ」という施術は、通称:「あはき法」によるマッサージ資格を取得した人のみに許可された行為であり、その資格がない場合は、「アロマセラピスト」であっても「マッサージ」を行うことができません。
関連記事:医療類似行為について
このことは比較的よく知られているようで、「マッサージ」資格をもっていない店舗においては、マッサージとは異なる言葉を使用しているようです(「ボディートリートメント」など)。
ところが、「マッサージ」という言葉を使用していなくても、日本でのエッセンシャルオイルはほとんどが「雑貨」扱いであることを忘れてはいけません。「雑貨」を人体へ塗布すること自体が日本では用法外なのです。
「化粧品」として認可されているエッセンシャルオイル(精油)であれば、美容を目的とした使用が可能になります。しかし、マッサージの資格を有していても、化粧品を「マッサージ」に使用することはできません。
施設によっては、エッセンシャルオイル(精油)をクリームや軟膏に混ぜて調合し、あたかも「医薬品」のように使用していることがあるようですが、これは明らかに薬事法違反です。
フランスでは、同様のものが「医薬品」として処方され、皮膚疾患や関節病の治療に使われているのは事実です。
ある国では認められている薬が、他国では認められないということはいくらでもあります。たとえば、日本で古くからある伝統的な薬や漢方薬の大部分がアメリカやヨーロッパでは認められていません。
日本では「雑貨」は「雑貨」、「化粧品」は「化粧品」としての使用に限られます。
エッセンシャルオイル(精油)を「医薬品」として他人に使用するためには、高度な資格と許認可が必要であるのはフランスに限られたことではありません。
日本においては、エッセンシャルオイル(精油)に医薬品的な名称を与えたり、薬理的・医学的な効果を期待させるような広告をすればは、薬機法違反になります。
しかしーーー
何事にも抜け道はあります。この抜け道を知ることによって、薬機法に詳しくなることができます。
まず、基本的知識として、
1.雑貨としてのエッセンシャルオイル(精油)を少量輸入・販売するのに許可・届出の必要はありません。
2.化粧品としてのエッセンシャルオイル(精油)は、すでに国内で流通しているものを仕入れて販売するのであれば許可・届出の必要はありません。
3.雑貨扱いであっても、自己責任で個人的に使用するのであれば、エッセンシャルオイル(精油)を調合したり、自分で飲んだり、皮膚へ塗ったりすることは違法ではありません(たぶん・・・)。ただし、当然ですが、何が起こってもすべて自己責任となります。
この3つの抜け道を上手に使って、エッセンシャルオイルの医学的な効能効果を宣伝しながら、自社のオイルを合法的に売り込む業者が存在します。
上記、1と2の範囲内で、誰でも海外で生産されたエッセンシャルオイルを許可なく販売することができるのはわかると思います。ただし、「雑貨」として販売しなければいけませんし、薬機法による広告違反があってはいけません。
では、どうやったら、薬機法に触れずに、医学的なエッセンシャルオイルの効能・効果を宣伝・広告できるのでしょうか。
エッセンシャルオイル(精油)のセミナーを開催するのです。
セミナーでは、エッセンシャルオイル(精油)の「フランス」における効能、効果、使用方法などを詳しく紹介します。
日本で認められていない他国の「医薬品」について勉強するのは、もちろん個人の自由であり違法ではありません。
ただし、医薬品のセミナーを医師・薬剤師以外のものが開催していいのかという問題はあります。
このセミナーで使用されるテキストには、エッセンシャルオイル(精油)を、すべて一般化学名・成分名で紹介します。
学術的なテキストであれば、薬機法違反にはなりようがありません。
つまり、こういうことです。
「フランスにおいて、ローズマリーはにきびへの効果が認可されています」とか「ラベンダーはうつ病への効果が認められています」という純粋に学術的な紹介ならば単なる勉強です。
違法な要素はありません。講義内容に間違いがなければ・・・
しかし、同じテキストブックに、「○○○○(商品名)はローズマリー100%です」という広告が載っていれば、たちまち薬機法に抵触します。
あるエッセンシャルオイル(精油)の解説のすぐそばに、ある特定の商品やブランドの広告が載っていると、あたかもその商品が「医薬品」として認められているという誤解を与えてしまう可能性がでてきます。
「○○○○(商品名)はにきびに効く」という誤解を与えてしまうのです。
そこで、セミナーの開催者は、どうするかというと、違う部屋にまったく違う別のカタログを用意するのです。そのカタログに「○○○○(商品名)は、純度の高いローズマリーのエッセンシャルオイルです」と広告するのです。
たしかに、これであればギリギリ大丈夫な気がします・・・
同じセミナー会場の中でカタログを配布すれば、アウトかもしれませんが、違う場所で薬機法に則った広告をおこなうのは合法でしょう(と思いますが・・・)。
セミナーの主催者は、セミナーの後、場所を変えれることによって海外で生産されたエッセンシャルオイルを許可・届出なく販売することが可能です(化粧品としてのエッセンシャルオイルを輸入・販売する場合には許可・届出が必要です)。
あるいは、セミナーの参加者へ個人輸入のためのカタログを渡しておけば、参加者は後日、エッセンシャルオイル(精油)を個人的に輸入できます。
これも合法でしょう(原則的には、自己使用のための個人輸入であっても、地方厚生局へは営業目的の輸入ではない証明を受ける必要がありますが、自分のために使う少量の輸入であれば税関確認だけでOKといわれています)。
輸入した本人が、個人の責任においてエッセンシャルオイルを自分の体に使うのは個人の自由でしょう。
しかし、これを他人の体に塗ったり、他人に内服させたり吸入させれば薬機法違反になります。
フランスでは「医薬品」であっても、日本では「医薬品」ではないわけですから、「医薬品」的な広告を謳ったとたんに、たとえ製造販売業許可を届け出ていたとしても、薬機法の違反になるのです。
日本では、「医薬品」または「医薬部外品」として認可されていない限り、「血行促進」、「疲労回復」、「~に効く」などの効果をうたう商品広告はすべて薬機法違反になります。
ところが、この「日本では「医薬品」的な広告ができない」という壁を、セミナーを開催することにより回避することができるのです。
日本で認可されている効能効果は、下記の本で調べる事が出来ます。逆に言うと、この本に書かれていない効能効果を日本国内で広告するのはすべて薬機法違反になります。
(監修:日本医師会、日本薬剤師会、日本歯科医師会)
最近、日本の医療施設においても、エッセンシャルオイル(精油)を皮膚や粘膜に塗ったり、吸入したりするフランス型のいわゆる「メディカルアロマセラピー」についての有用性が臨床的に研究されるようになってきました。
たとえば、別記事で紹介した認知症予防が期待されている「朝用アロマ」「夜用アロマ」の研究もその一つです。
その他、ストレス軽減、不安神経症、うつ病、緩和治療に対し、エッセンシャルオイル(精油)を吸入、塗布する研究がおこなわれているようです。
これら臨床研究による効果が証明されれば、日本でもエッセンシャルオイル(精油)による、いわゆる「メディカルアロマセラピー」が確立されてくるでしょう。
日本でのエッセンシャルオイル(精油)の効能は過小評価されすぎていると、「セラピスト」と呼ばれる人たちが状況を悲観しているようです。
しかし、考えてみてください。
日本においてエッセンシャルオイル(精油)やアロマオイルを自由に他人に使用できるのは、極論すると医師だけです。
医師であれば医師の責任において治療に何を使用してもよいことになっています(医師の裁量権)。効能外や適応外使用の場合でもきちんとベネフィットとリスクを説明し、患者さんから同意が得られていれば患者さんに使用することができます。
(日本では混合診療が禁止されているので、そのサービスが患者さんがもつ疾患に対する診療行為の一連でない場合は有料(自由診療)になりますが、現在の病気の治療の一連であるとみなされるなら無償(保険診療)で提供可能です)
自称、「セラピスト」と呼ばれる人たちに厳しいことを言うようですが、そもそも、エッセンシャルオイル(精油)に医学的効能が認められ、「医薬品」として承認された場合には、エッセンシャルオイル(精油)は医療機関においてのみ処方されるべきものなのです。
医薬品として人に使用する以上、いわゆる「セラピスト」に扱えるものではありません(反対の立ち場で考えてみたらわかりやすいと思います)。
いずれにせよ、エッセンシャルオイル(精油)やアロマオイルを他人に内服させたり、他人の体に塗る行為は、医師免許を有していない限り、重大な法律違反であることを心に銘記しておかなければなりません。
(終)
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