« 誰も言わない看護基準の話 1 | トップページ | 誰も言わない看護基準の話 3 »

誰も言わない看護基準の話 2

当時は、なかなか、この違いをふまえた議論ができなかった。

アメリカにおける2:1看護レベル(常時配置)は、日本における常勤配置でおよそ1:2.5看護であるので、日米の看護基準の違いは分子と分母の入れ替えに過ぎないという、まったくわけがわからない主張も存在した。

2006年、ようやく日本でも看護基準が国際法にしたがって表示されるようになった。

と同時に、ようやく日本のあまりにも薄い看護基準の問題が認識されるようになった。

急性期にもかかわらず10:1看護や15:1看護という病棟が、たくさんあったのである。

アメリカの医療からみれば考えられない手薄さであった。

医療事故が起こるのがあたりまえのような状態だったのである。

実際に、医療事故にまきこまれ、看護師の資格を奪われた人もいた。

制度に問題があるにもかかわらず、個人が責任を取らされるという状態が続いた(この状態は、今も続いている)。

 

問題の本質が、患者10人に看護師1人までしか雇えない程度の診療報酬の低さにあるとようやく理解した厚生労働省は、2006年、7:1看護基準に高い診療報酬を設定した。

当時の方針として、今後は7:1看護以上の看護体制に対し高い入院基本料を支払い、将来的にはさらに手厚い2:1 ~ 3:1看護基準を導入していくというものであった(とはいっても、米国の一般病床の看護基準にすぎないが・・・)。

この方針自体は歓迎すべきものであった。

ところが・・・

この結果、マンパワー不足に泣いていた多くの病院が7:1看護に飛びつき、看護師を増やす方向に動いた。

これは当時の状況を考えれば当然のことであった。

当時の病院は看護師1人の受け持ち患者が10〜15人と非常に多く、極度の多忙、人手不足状態にあった。

過剰労働にともなう看護師の高い離職率の改善は、どの病院においても解決しなければならない喫緊の課題であったのである。

しかし病院としては、看護師を増やそうにも、極度に抑制された診療報酬のため、看護師の人件費が不足していて増やせない状態であった。

そこに、7:1看護へ高い診療報酬が設定され人件費が保証されれたのであるから、看護師を増やしたい病院は軒並み7:1看護を標榜した。

看護師にとっては7:1看護の病棟であれば、15:1看護の病棟よりも、労力は半分ですむ。

このため多くの看護師が7:1看護を標榜する病棟・病院を目指して転職した。

その結果、、、

ニュースになったように、病院による看護師の激しい奪い合い、勝ち組病院による看護師の一極集中化のような現象がおこり、ますます看護師が不足する病院がでてきた。

結局、看護師の絶対数が足りないのである。

実は、看護師に対する需要はきわめて高い。

にもかかわらず、看護師の価値(賃金)があがらないのである。

診療報酬を毎年のように抑制しているためだ。

こんな状態で、将来的にさらに2:1~3:1の看護基準を導入することなど不可能であることが明白であった。

医療費を抑制すると、病院は看護師を雇えない。

看護師は多忙になり、患者との対話に費やす時間がなくなる。

看護師という仕事自体の魅力が減る。

看護師を目指したいというなり手は次第に減る。

なり手が減れば、看護基準を高くすることはますます難しくなる。

「悪循環」である。

この悪循環をドライブしているのは、看護師の人件費(診療報酬)不足に他ならない。

アメリカでは、1ベッド数あたりの看護師の数が日本の10倍以上であることを考えてほしい・・・

しかも、アメリカの看護師の時給は25−28ドルと、日本の2-3倍である。

本来、これを賄える診療報酬が設定されていなければならない。

一方で、やはりアメリカの看護師はエリートであり、資格を取得する難しさは日本の比ではないことも銘記しておかねばならない。

日本の看護師の不足と、看護基準の問題と、看護師人件費の不足は相互に深くリンクしている。

« 誰も言わない看護基準の話 1 | トップページ | 誰も言わない看護基準の話 3 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 誰も言わない看護基準の話 1 | トップページ | 誰も言わない看護基準の話 3 »