【科学】真空の温度って、高いの? 低いの?
真空の温度は絶対零度とか、宇宙は凍えるほど寒いとかいいますが、本当でしょうか?
たとえば月。
月には地球のような大気がなく、その世界はほぼ真空に近い状態です。
曰く、その表面温度は夜間マイナス180℃まで冷えるといいます。でも昼間は110℃まであがるそうです。

では、その表面から1m離れたところはどうなんでしょう?
やはり昼と夜で暑くなったり寒くなったりするんでしょうか?
そもそも・・・
真空の世界って、暑いんでしょうか?寒いんでしょうか?
気圧と温度の関係といえば・・・みなさん、高校で
PV = nRT (Boyle & Charles Law)
という式を習いましたよね?(習ったはずです・・・(;´^_^`))
「ある空間の気圧を下げていくと、その気体の温度がどんどんさがる」というボイルシャルルの法則です。
この法則から真空の温度を考えてみます。
1本の真空管があるとします。
中を真空にするには、あたりまえですが、中の空気を抜いていき、中の気圧をさげていきます。中の気圧がゼロ(P=0)になれば、中の気体の温度(T)はゼロ(= -273.15度)になります(ボイルシャルルの法則)。
つまり、真空である真空官の中の気体の温度は絶対0度です。
ん?でも、ちょっとまって・・・
真空管の中の 気体の温度?
でも、そこには気体は "ない" はず・・・ですよね?
"ない" ものの温度がゼロ・・・ってどーいうこと?(・・∂) アレ?
ここらへんが真空の温度を考える難しさです。
ちょっと落ち着いて考えてみましょう。
ある空間の温度は何度?
と問われると、ついつい、その空間に温度が「ある」ような気がします。
しかし、そもそも空間自体には温度なんてないんです。
温度というのは、
その空間にある「気体」の温度とか、
その空間にある「物体」の温度とか、
なにか空間に存在するモノの"エネルギー"です。
わかりやすく言うと、
空気の分子がどれだけ激しく動きまわっているか・・・をあらわしているのが気温です。
水の分子がどれだけ激しく動きまわっているか・・・をあらわしているのがお湯の温度です。
水や空気の温度というのは、空間の中で水や空気の分子が動き回り、温度計にどんだけ激しくブチ当たっているか・・・を測定しているにすぎません。
真空 = 「からっぽ」の空間ですから、温度計に衝突する分子が存在しません。
だから、真空(からっぽの空間)には、温度が「ない」と考えるのが正解です。
冒頭にでてきた気体の気圧と温度の関係を表す式を思い出してください。
PV = nRT
この式にあるT(温度)は、空間に存在する「気体」の温度です。
気体の分子がどれだけ激しく温度計にぶつかっているか。これが気体の温度です。
だとすると、気体がぶつからないとき、その温度は絶対0度?
しかし、気体が存在しない真空では、そもそも、気体の温度を測りようがありません。
「真空の気温」なんて、考えること自体がナンセンスなんです。しかし・・・
とはいっても・・・
測りようがない、とか、
定義がおかしい、とか、
絶対0度の「存在しない気体」という二重否定のような状態が真空(理論的な絶対真空)なんだと理解できたとしても・・・
そんなこといくら言ったって・・・
現実問題、
真空管の中に温度計を突っ込めば何度をさすのでしょうか?
温度計の表示には「なし」とか「ナンセンス」なんてありません。
何かしらの温度を示すはずです。
いったい何度を指し示すのでしょう?
なんか、低めの温度をさすのでしょうか?
たとえば・・・
なんとな〜く室温より低い温度をさすのでしょうか?(・∀・)
・・・
真空管が真空になる直前にはまだ真空管の中に期待がわずかにあります。
その状態を考えてみましょう。
真空管の中には、わずかに気体が存在し(非常に低圧の気体ですね)、その気体の温度(気温)は限りなく絶対零度に近いはずです(理論的に)。
それは正しい。とすると、その気体の温度がたとえば絶対1度(マイナス272.15度)だとして・・・
そのわずかに存在する「絶対1度の気体」の圧をさらに下げて、気温をあと1度さげてみると・・・
その気体が絶対0度に冷えるとともに、その気体そのものが消えてしまいます・・・
その瞬間、温度計の数字はどうなってしまうのでしょう?
このギリギリのあたりで・・・いったい、何がおこっているのか・・・
ちょっと、よくわかりませんよね?
今、考えているのは、宇宙空間とかではなく
1本の真空官があなたの部屋にあるとして、その真空管の中に温度計をおくと、その温度計はいったい何度をさすのか?というきわめて単純な問いです。
(現実には完全な真空などありえないという精密な議論は横において話をすすめています。理想論です(^-^;)
もし、あなたが小さくなって、真空官の中に入ることができたとしたら・・・
真空官の中は凍えるほど寒いのでしょうか?
・・・
答えを先にいいましょう。
実は、真空官の中って、ぜんぜん寒くないんです。
どうして・・・?
たとえば、ある空気を1000度に熱すると、空気の分子は激しく運動します。
1000度の空気は、めちゃくちゃ熱いに違いありません。激しく動いている空気の分子があなたの皮膚にぶつかるからです。それを皮膚は熱いと感じます。
しかし、その1000度の空気の圧力を下げていくと、それほど熱く感じられないようになっていきます。
おもに二つの理由があります。
ひとつには、気圧がさがると、ほんとうに気体の温度が低下するからです。
気体の分子が皮膚や温度計に衝突しにくくなるということです。
PV = nRT
の式の通りです。
温度計で測った気体の温度は、圧力が下がるにつれて、さがっていきます。
さらに、もうひとつ。
体感温度の問題です。
気体の気圧が下がると、ヒトの皮膚が、その気体の「存在」そのものを、感じられなくなっていきます。
たとえ、ひとつひとつの空気の分子は激しく運動していてもです。
空気の分子の衝突を皮膚が感じなくなれば、皮膚が空気を熱いと感じることができません。
熱いと感じる現象が起こりにくくなります。
分子の運動からみると、かなり「ホット」な状態であってもです。
もしかしたら、分子が皮膚に激しく衝突するたびにチクっとするかもしれません。分子と衝突した皮膚の細胞は障害を受けるかもしれません。
しかし、熱いという感覚ではないでしょう。
このように二つの要因で、気体の熱さが失われていきます。
皮膚が感じる気体の温度は、温度計の温度そのまま、というわけではないのです。
(90度の空気と90度のお湯はどちらが熱いか、みたいな話です)
さらに圧力をゼロに近づけると、
ひとつひとつの空気の分子は、1000度の時と同じ程度に激しく動き回っていたとしても、"気体の温度"としては、どんどん絶対零度に近づいていくでしょう(理論的に)。
しかし、皮膚には冷たい・・・とは感じられないんです。
だって、
皮膚にとっては、気体の存在そのものが希薄なのですから。
熱かろうが冷たかろうが、そもそも、もう、皮膚にとっては、その気体が存在しないのです。
では、もともと冷たい空気ではどうでしょうか?
マイナス100度に冷やされた空気を考えてみましょう。
この空気は1気圧であれば冷たいはずです。
冷んやりと、凍えます。
このマイナス100度の空気の圧力を下げていくと、
温度計で測る気温もさがり、しばらくは、どんどん冷たくなっていくように感じられるかもしれません。
しかし、途中からその冷たさが感じられなくなっていくはずです。
空気が、その存在感を失いはじめるからです。
充分に気圧がさがると、冷たさ(空気の存在)なんてまったく感じることができなくなるはずです。
かといって、熱く感じることもありません。
圧力ゼロに近い気体の温度は、(理論的に)絶対零度に近いはずですが、ヒトの皮膚は、もう、その冷たい空気の存在自体を感覚できません。
このように、気体の温度としては絶対零度に近いはずなのに、皮膚にとってはぜんぜん冷たくない空気というのがありえます(理論的に)。
結局、
もともとの気体の温度、たとえば1気圧での気体の温度が高かろうと低かろうと、
気体の分子が激しく動いている「ホット」な状態でも、
あまり動いていない「コールド」な状態でも、
真空または真空に近い状態では、
人はその気体の「熱さ」や「冷たさ」を感じることはできません。
それよりも・・・
真空管の中に入ったあなたが感じるのは、
真空管の壁から降り注ぐ放射熱(電磁波)です。
真空管の壁から降り注ぐ放射熱によって、
真空管の中のあなたには
真空管の中がまるで室温のようにあたたかく感じられるはずです。
実際、真空官の中に温度計をおくと、
温度計は真空官の外の室温(=真空官の壁の温度)に一致した温度を示すでしょう。
真空官の壁から内部に向かって熱(電磁波)が放射されるため、真空管になかにおかれた温度計は真空官の壁と熱平衡に達するのです。
考えてみてください。
真空管に温度計を入れるまでは、気体も何もないその真空の空間に温度はありませんでした。
でも、真空管に温度計を差し込んだ瞬間に
温度計の温度
というものが発生するわけです。
真空管の中の温度計は、真空管の中の空間の温度を測るのではなく、温度計自身の温度を測ってしまうのです。
なんか哲学的な・・・
そもそも―――
真空官を触ったことがある人は知っていると思いますが、
真空官はぜんぜん冷たくありません。
真空官の中が絶対0度ならば、真空官はめちゃくちゃ冷たいはずですよね。
真空官がどんどん周囲から温度を奪っている話なんて聞いたことがありません。
すなわち、室温と熱平衡にある真空官の壁からは、真空管の内部に向けても熱(電磁波)が四方八方に放射されており、
真空官全体として周囲の空間と熱平衡を達成しているといえます。
だから、真空官は冷たくありません。
ある空間の中に置かれた「物体の温度」を決めるのは、
その物体の回りにある気体の温度だけでなく、
物体に降り注ぐ放射熱(電磁波)の影響もあるのです。
実際、
あなたの部屋の気温は?
といわれれば、簡単に温度計で測ればいいような気がしますが
実はそんな単純な話でもなく、へんてこりんな現象がおこっています。
あなたをつつみこむ空気という気体・・・
その気体そのものの温度(気温)は、温度計では正確に測れません。
なぜなら、温度計を部屋に置いた瞬間、その温度計は気体から受ける熱エネルギーだけでなく、
部屋の壁から放射される熱エネルギーもいっしょに測定してしまうからです。
結論から言うと、
部屋の気体の温度を正確に知ろうと思えば、部屋の中の気圧を測り、計算するしかありません。
部屋の中の温度計が示している温度とは、部屋の空気からの伝導熱と、部屋の壁からの放射熱(部屋を満たしている電磁波)のミックスされたものであって、純粋な気温ではないんです。
(部屋を完全黒体とみなせば、部屋を満たしている電磁波を測定することによって、部屋の温度を推定することもできるかもしれません。しかし、その温度も部屋の気体の温度(気温)とは言えません)
真冬に部屋の空気の温度(気温)をどれだけ温めても、部屋の壁が冷たければ部屋の中は寒い、と感じられます。
部屋の空気は冷たいのに、白熱電球を点灯した瞬間、パッと暖かさを感じることもあるかと思います。
気温ではなく、電磁波(放射熱)を感じているのです。
電球から放射された電磁波(放射熱)が周囲の空気を暖め、その空気があなたに熱を伝えているのではありません。
白熱電球から放射された電磁波(放射熱)が、ダイレクトに(光速で)あなたを温めているのです。
あなたと白熱電球の間に空気があろうとなかろうと、同じです。
真空の部屋であっても、電灯が点灯した瞬間にパッとした暖かさを感じることができるはずです。
さぁ・・・
真空や気温についての理解もかなり深くなってきたのではないでしょうか?
最後に、
宇宙空間の温度を考えてみましょう。
ある宇宙空間を想像してみてください。
その空間には温度計も何もないとします。
そこを光(電磁波)が通過しているとします。
そのとき、真空である、その宇宙空間の温度は、光(電磁波)の通過によって上がるのでしょうか?
いいえ、あがりません。
前述したように、真空に気温があるとすれば、それは絶対0度ですが、そもそも真空には気体がありませんから、気温がありません。
(現実には、真空と思われる宇宙空間にも、きわめてうっす~い分圧のガスが存在したり、その分子の運動を観察すると、かなり激しく動いていて「ホット」なガスだったりするのですが、あまりにも気圧が低いためにまったく熱くありません。もちろんあまりにも気圧が低いため冷たくもありません)
一方、
光(電磁波)は、真空である原子も何もない空間(絶対空間)とは干渉しません。
光が空間を通過するとき、エネルギーの出し入れはなく、素通りします。
光はエネルギーをもっていますが、不思議なことに光速で飛んでいるかぎり、そのエネルギーを絶対に放出しないのです。
ただし、何かにぶつかると、一気にエネルギーを放出します。
真空の中を光(電磁波)が通過するだけでは、光はその空間に何ら温度に関する影響をあたえません。
光(電磁波)が空間を通過しても、空間そのものが温度を持つことはないのです。
真空には温度がない・・・とは、そういうことです。
ある真空の宇宙空間が、強い光(電磁波)で満たされていようといまいと(明るかろうと暗かろうと)、空間そのもののエネルギーはゼロともいえます。
また、質量がゼロである光(電磁波)そのものにも温度はありません(エネルギーはあります)。
しかし!
誰かが、その宇宙空間にモノを置いた瞬間、変なことが起こります。
光(電磁波)が通過している真空中に、モノをおくと、
光(電磁波)がそのモノに衝突し、光(電磁波)のエネルギー(放射熱、輻射熱)がそのモノに与えられます。
そうすると、そのモノの温度は上昇します。
モノの周囲、すぐ横は真空ですから何も「ない」、温度もないのですが、そのモノ自体の温度は、そこを通過している光(電磁波)のエネルギーを吸収しながらどんどん上昇するのです!
モノの温度が上昇すれば、モノからも熱が放射されはじめます。
この熱の吸収と放射がつりあい平衡したところでモノの温度が安定します。
モノが充分に熱くなり、周囲に熱を放射しても、モノの周囲が真空である限り、モノ周囲の空間はあたたまりません。
モノの周囲が真空であれば、熱が周囲に伝導することもありません。
では、そのモノが、温度計であったら?
真空に温度計を置いた瞬間・・・・
光(電磁波)がその温度計に衝突し、光(電磁波)のエネルギー(放射熱、輻射熱)が温度計に与えられます。
そうすると、その温度計の温度が上昇していきます。
これは、温度計のまわりの空間の温度を測定しているのではありません。
温度計自身が、そこを通過している光(電磁波)のエネルギーを吸収し熱くなっているのです。
温度計の温度が十分に上昇すれば、次第に、温度計からも熱が放射されはじめます。
この熱の吸収と放射がつりあい、平衡に達したところで温度計の温度が安定します。
その計測値は・・・いったい何を計っているのでしょうか?
温度計周囲の真空の温度ではありません。
温度計自身の温度です。
真空の温度を測ろうとしても、測れない・・・というジレンマ・・・
これが、
真空に温度は「ない」というほんとうの意味です。
反対に・・・
真空中にまったく光も電磁波も存在しなければ、
温度計は自身の熱を電磁波として宇宙空間にむかって放射していき、次第に冷えていきます。
念を押しますが、真空が温度計を冷やすのではありません。
温度計が勝手に周囲に熱を放出し、温度が下がっていくのです。
光も電磁波もない空間には、モノを暖める作用も冷やす作用もありません。
充分に時間をおけば、温度計の温度はどんどん下がり、絶対0度に近づいていくでしょう。
周囲に気体がなく、降り注ぐ電磁波も放射熱もない・・・
こうやって。やがて温度計が最終的に示す温度が正確な絶対零度の定義といえます。
では、
光も電磁波も存在しない真っ暗な真空中に、
モノや温度計ではなく、人間をおくと、どうなるのでしょうか?
真っ暗な真空中に裸で飛び出したら、どんな感じがするのでしょう?
もし、生命に何の問題も生じない
と仮定すると、
(実際には、気圧が低い環境では血液が低温沸騰(減圧沸騰)をおこしてしまい、人はすぐに死んでしまいますが)
もし、暑さ寒さを感じることができるとすると、
光も電磁波も存在しない真っ暗な真空というのは
ぶっちゃけ、ひんやりする?
どんどん冷えていき、最後は極寒のガクブル状態?
・・・
・・・
・・・
いいえ。
実は、ぜんぜん寒くはないのです。
ここは、真空の温度を考える上で、もっとも多くの人が誤解している点だと思われます。
先ほども述べたように、
光も電磁波も存在しない真空には、モノを暖める作用も冷やす作用もありません。
だから、暖かくはないはず。
ここに異論はないでしょう。
しかし、
寒さについてはどうでしょう?
光も電磁波も存在しない真っ暗な真空におかれた温度計やモノは、自分の熱を勝手に放出しながら、ゆっくりと、しかし確実に絶対零度に近づいていきます。
周りを冷たい水や液体窒素、気体などで囲まれていれば熱放射だけでなく熱伝導によってさらに積極的に熱が奪われ、冷えていきます。
最終的に絶対零度に近づいていくでしょう。
でも、真空が熱を奪っているのではありません。
真空に温度を奪う力はありません。
モノや温度計が自分から熱を放散しているだけです。
みかたによっては、逆に、真空には温度計やモノの温度を維持する働き(保温効果)があるようにもみえるでしょう。
実際、真空は、熱の伝導を妨害する断熱材として作用します。
魔法瓶を想像すれば理解しやすいでしょう。
真空は、熱の伝導を妨害します。
しかし、熱の放射を妨害することはありません。
なので、
温度計やモノを真空の暗闇にほうっておけば、勝手に熱を放出し、いつか絶対零度まで温度が下がっていきます。
真空が温度計やモノの熱をわざわざ奪っているわけではなく、温度計やモノが、真空中で熱を放射しながらどんどん冷却していくのです。
人のからだでも同じです。
もし真空中で人が熱さを感じるとしたら、その原因は光や電磁波による放射熱を浴びているからでしょう。
しかし、光も電磁波もない真空であれば、人が放射熱を感じることはありません。
すなわち暑く感じることはないのです。
では、宇宙空間はヒンヤリと冷たいのでしょうか?
いいえ。
前述したように、
真空とは、まわりに熱を奪う媒体がない状態です。なので冷たいはずもありません。
つまり、真空かつ光も電磁波もない空間では、人は熱さを感じず、かといって、寒さも感じません。
もし裸で真っ暗な宇宙空間に飛び出すことができたなら、暑くも寒くもない宇宙空間に意外な感じがするかもしれません。
すると、快適なんでしょうか?
暑くも寒くもないなら、快適そうだなぁ!
と思うかもしれませんが、それは最初だけかもしれません。
では、モノと同じく次第に冷えていき、最後には絶対零度になってしまう?
いえ、それも違います。
人はモノと違い、内部で熱を産生しています。
産生された熱の一部は、周囲の空間に放射されます。
これは地球上であろうと真空であろうと同じです。
しかし、地球上には空気があります。
したがって、熱伝導によって失われる熱には地球上と真空中で大きな違いがあります。
地球上では、人が作り出した熱のうち、かなりの量が空気への熱伝導によって奪われているのです。
空気による冷却効果です。
しかし、真空には、この空気がありません。
真空には空気による冷却効果がないのです。
したがって、真空では、人間が熱を失うメカニズムは熱放射だけ
になります。
すると、人間はつくった熱を持て余してしまいます。
真空中では、人のからだは、モノや温度計のように簡単には冷えていくことができません。
すると、人は真っ暗な宇宙空間で熱中症をおこすのでしょうか?
管理人も最初はそう考えました。しかしそれも違うようです。
(たくさんの方からコメントをいただきました)
結論をいうと、人の体は真空中でおよそマイナス50~100度まで下がります。
人を黒体とみなし、生体の安静時の熱産生量を75~100Wとして計算した結果です。
人が真空中で生きて安静にしている限り、マイナス50~100度で熱の放散量と産生量が等しくなり、平衡状態に達しそうです。
ただし、ヒトは活動によってその熱産生量を1000W程度まで増やすことが不可能ではないようなので、体を動かして熱を産生し続けることができれば体温を保つこともできるはずです。
しかし、概算してみると、真空中で体温36度を保つために必要な熱産生量は875W程度。これはボート競走やトライアスロンレベルの活動であり、とても長続きしませんね。
体力が尽きると、やはり、ゆっくり体は冷えていくでしょう。
そのとき、自分のそばにある温度計(絶対零度)を触ると、温度計にあなたの熱が伝わり、温度計は温まるかもしれません(温度計があなたの体温を測っていることになります)。
また、経過中に生命が失われるとその時点でヒト生体としての熱産生は停止し、その後はモノや温度計と同じ運命をたどる・・・すなわち、絶対零度に向かって冷えていくことになるでしょう。
結論です。
真っ暗な宇宙空間(真空)は、実は、ぜんぜん寒くも暑くもありません。
しかし、暑くも寒くも感じないまま、あなたの体はしだいに冷えていきます。
最終的には(生きている限り)マイナス50~100度の体温で平衡します。
冷えていく過程を、寒いと感じるかどうかは、また別の考察が必要そうです。
おわり
(本記事は、極端に理想化した条件を想定した、いわば思考実験による考察です。正解など確かめようもありません。実際にヒトが宇宙空間に裸で飛び出せば、暑いのか寒いのか感じる前に即死しますし、生命機能がマイナス50~100度の体温に耐えうるはずもありません。あしからずご了承ください)
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コメント
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面白かったです!
投稿: 名無し | 2020/01/12 11:23
ポジティブなコメントありがとうございます!頑張って書いた甲斐がありました!
投稿: 管理人 | 2020/01/13 13:43
とても分かりやすく、読み進めるうちに湧いてくる疑問に全て答えてもらえてとても面白かったです。
投稿: | 2020/11/12 15:49
>とても分かりやすく、読み進めるうちに湧いてくる疑問に全て答えてもらえてとても面白かったです。
ありがとうございます!書いた甲斐がありました!
投稿: 管理人 | 2020/11/15 10:18
「室温なのに、水と水蒸気が両方あるってなんだか不思議だな」と思って調べていたらこちらの記事にたどり着きました。
温度計は、温度計自身の温度を測っていただけ。それなのに僕は「液体の水分子の温度と、気体の水分子の温度が同じ」と勘違いしていたわけです。
体感温度も納得しました。「ヤカンから出る湯気にふれると火傷するのに、空気中の水蒸気にぶつかっても火傷しない」ってそういうことかと。
管理人さまの記事を読んで、「温度」ってわかっているようで案外曖昧な理解に済ませちゃうものだなと思いました。
読み進めて「人間が真空中に出ると寒くてガクブルなのか?いや、熱中症になる」に至ったときは、まるで福岡伸一先生の本を読んでいるような感覚でした。
複雑な現象を平易かつ冗長にならずに説明できるとこんなに面白く感じるんですね。
僕にとっては「他人からわかりやすいと思ってもらえる文章」を書くのは相当な労力なのですが、もしも管理人さまが苦労せずこの記事を書かれていたとしたら驚きです(笑)
気づきのたくさんある、役立つ読書体験でした。書いてくださりありがとうございます!
投稿: 堀切 | 2020/12/09 14:14
堀切さま
ややこしい話なので読みにくいだろうなぁと心配していましたが、楽しんでいただけて嬉しいです。この記事の完成には相当苦労しましたが、良いコメントをいただけると励みになります。ありがとうございます!
投稿: 管理人 | 2020/12/10 17:39
非情に面白く読ませていただきました。おおむね自分と同じ考えの路線をたどっていたのですが、人体の熱放射の項目に関して違和感を抱いたので軽く、ステファン=ボルツマンの公式を使いながら計算したところ人体の熱均衡は₋59度と冷える結果になったのですが、主様はどのような過程を経て熱中症になるという結論になったのでしょう。
計算過程
P(エネルギー量、100W)=e(熱放射係数、0.5と仮定)σ(定数、5.67*10^-8)A(表面積、1.69)T(温度)^4の公式を使い計算しましたところ、T=(P/(eσA))^(1/4)=(100/(0.5*5.67*10^-8*1.69))^(1/4)で213ケルビン、マイナス59度となりました。
私の計算に間違いはございますでしょうか、
投稿: | 2021/03/19 03:28
コメントありがとうございます!数人の方から同様のご指摘をいただいています。人体の熱産生量はせいぜい50~100W程度しかないようですね。すると冷却に向かいます。一方、表面温度と中心温度の差(皮下組織による遮熱効果)が非常に重要であるとのご指摘をいただいています。するとやはり熱中症でしょうか・・・。どうまとめるべきか悩む過程で(そのつもりはないのですが)記事を放置することになってしまい、ご指摘をいただいた方に申しわけなく思っています。いつか時間があればアップデートに挑戦してみたいと思ってはいますが・・・なかなかややこしい話で・・・(汗)
>P(エネルギー量、100W)=e(熱放射係数、0.5と仮定)σ(定数、5.67*10^-8)A(表面積、1.69)T(温度)^4の公式を使い計算しましたところ、T=(P/(eσA))^(1/4)=(100/(0.5*5.67*10^-8*1.69))^(1/4)で213ケルビン、マイナス59度となりました。
>私の計算に間違いはございますでしょうか、
投稿: 管理人 | 2021/03/19 14:18
返信ありがとうございます!
確かに単純に発熱量を計算するだけでは足りず、皮下脂肪などの断熱や吸収、体内に向けた再放射など様々な要素が絡み合いますね。思考プロセスなどがわかりやすく、読んでいて辿りやすかったです。アップデート版が記載されることになれば、ぜひまた読ませていただきたい所望です。
投稿: | 2021/03/19 15:11