アインシュタインの一般相対性理論 10話で完結 その3
(もどる)
(つづく)
前回の記事では、アインシュタインが歪んだ世界の様子を数式であらわした・・・と、述べました。
本記事では、その意味をかんたんに説明します。
少し数式がでてきますが、その専門的な理解は必要ありませんのでご安心ください。
今、たとえば、下図のように、曲がった世界(膜世界)があるとして
こんな曲面、どんな数式で表現したらいいのでしょう?
少し数学に詳しい人なら、2変数関数とか偏微分や全微分をつかえばいいのでは?と思うかもしれません。
しかし、アインシュタインが必要としたのは、もっと複雑な数学でした(曲面の式というより、曲面の上に描かれたグラフとかベクトルの式・・・みたいな)。
いろいろな記録によると、これはアインシュタインも
「むずかしいなぁ・・・」
と感じていたようです。
ところがラッキーなことに、すでに天才数学者たちがそういう難しい問題を解決していたのです。
その式はこんな感じです。
∇ = ∂ + Γ
えっと・・・
意味不明と思いますが、めっちゃ簡単に書いたつもりです。
むしろカンタンすぎて意味不明かもしれませんね(;´▽`A``)。
でも、もともとの式は複雑すぎて気持ちが萎えるので絶対見ないほうがいいです(注1)。
天才アインシュタインでさえも、この式を理解するのに相当に四苦八苦したようですし・・・
専門家でもない限り、式の意味とか式の成り立ちとか、あまり気にしないほうがいいでしょう( ̄- ̄) 。
(こんなこと言うと、専門家の先生に怒られそうですが・・・)
そんなことより、非専門家のみなさんにはもっと注目してほしいことがあります。
それは Γ (ガンマ)です。
∇ = ∂ + Γ
の式には「∇」とか「∂」とか「Γ」とか、意味不明な記号がならんでいますよね?
でも、つまるところ
Γ = ∇ - ∂
すなわち、「∇」と「∂」の差を Γ (ガンマ)といいます。
ここが非専門家にとってはめちゃくちゃ大事なところです。
この Γ (ガンマ)こそが、アインシュタイン方程式につながる「最大の鍵」といえます。
とりあえず非専門家のみなさんは「∇」と「∂」を無視して Γ (ガンマ)だけに注目しましょう。
では Γ(ガンマ)とは何か?というと・・・
ズバリ
空間の曲がり
です。
空間の曲がりとは、つまり、アインシュタインのいう世界の歪みのことです。
この世の空間は曲がっている!
というのが一般相対性理論ですよね。
イメージをむりやり絵にしてみると、こんな感じです。縦方向のうすい青い線が空間の座標線です。
青い線は平行でも直線でもなく、曲がっていますよね?
(薄い青線:膜の内部の座標線。膜の内部世界では、この青い座標戦は等間隔で平行な直線です。外から見ると、それがこんなに曲がってみえます。膜の内部世界では黄色の線の曲がりはその分を加減して考えなければなりません)
この図は専門書にもちょくちょくでてくる絵ですが、絵にしたところで最初は意味不明かもしれません。
例えばこの図では、黄色の線の曲がりは、本当は大きいのですが(∇)、青い線の曲がり(Γ)の影響を受けて、みためは小さく見えています(∂)。
本当の曲がり(∇)を知ろうと思えば、みための曲がり(∂)に世界の曲がり(Γ)を加味しなければなりませんよ、って話です。
ま、わからなくたって大丈夫。
Γ(ガンマ)は
空間の曲がり
である、ってことを押さえておきましょう。
次のイメージならもう少しわかりやすいでしょうか?
(黄色の線の曲がりを、曲面の外からみた場合「∇」と曲面の中からみた場合「∂」、その差が世界の曲がり =Γ(ガンマ)になります)
黄色の軌道の変化は、世界とか空間の曲がり(Γ)によって脚色されるのです。
逆に考えると、もし「∇」と「∂」が一致しているようなときは、空間は曲がっていません(下図)。
すなわち空間や世界が曲がっていないとき
Γ(ガンマ)= 0
になります。
このようなとき、世界は「平坦である」などと言います。
反対に、もし世界が曲がっていれば「∇」と「∂」が一致せず、Γ(ガンマ)はゼロになりません。
ここは、アインシュタイン方程式を理解するうえでの核心中の核心ポイントだと思います。
世界が曲がっていると、Γ(ガンマ)はゼロになりません。
(わかりやすさを優先するため、かなりデフォルメして書いています)
あなたが専門家や数式マニアでもない限り、
∇ = ∂ + Γ
の式の成り立ちなどに深入りする必要はないと思います。
非専門家や一般人にとって重要なポイントは、
Γ(ガンマ)が世界の曲がりをあらわしている
ということだけです。
これが、この記事冒頭で書いた
アインシュタインが歪んだ空間や世界の様子を数式であらわした・・・
という意味です。
あなたが非専門家なら、とりあえず、この Γ(ガンマ)の意味だけを知っておきましょう。
「∇」や「∂」の意味は無視しましょう!
(なんて言うと、ますます、専門家の先生に怒られそうですが・・・(汗))
そして・・・むしろ、ここからがアインシュタインのすごいところなんですが
アインシュタインは、
この Γ(ガンマ)の値を一発で計算する、いわば Γ(ガンマ)の
"解の公式"
みたいなものを必死になって探し求めました。
素人的には、Γ(ガンマ)の値を知りたいのなら、「∇」と「∂」を別々に計算し、その差を調べればすむのでは?
Γ = ∇ - ∂
と計算すればすぐわかるじゃん?・・・という気がしますが、
それではダメだったようで、アインシュタインは複数の数学者に頼んだりして、やっとの思いで
Γ(ガンマ)の "解の公式" を手に入れたそうです(この式も気持ちが萎えるので見ないほうがいいです(注2))。
アインシュタインが抱いた Γ(ガンマ)への強いこだわり。
いったい彼は何故そこまで Γ(ガンマ)にこだわったのでしょう?
すごい理由があります。
(続き)
(つづく)
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(注1)この数式は見ないほうがいい・・・と書きましたが、怖いもの見たさで興味ある人のために紹介すると次のような式になります。
どうでしょう?複雑すぎて意味わからないですよね?
この数式がサッと分かる人は本記事なんか読んでいないと思いますし、そうでない人は、この式をみてもわけがわからないはずです。
しかしアインシュタインは、当時、自分の専門外である数学の論文の中からこの式を発見し「これだ!」と見抜いたわけで・・・友人の数学者に手伝ってもらったとはいえ、すごいとしか言いようがありません。
添字(α、β、γなど)をすべて省き、式をデフォルメして書くとこうなります。
つまるところベクトル(v)に関する式ですね。
∇をベクトルの共変微分といいます。
∂をベクトルの偏微分といいます。
すなわち、本文中にも述べましたが、Γ(ガンマ)は、 ∇(ベクトルの共変微分)と ∂(ベクトルの偏微分)の差をあらわします。
とは言え、ベクトルの共変微分(∇)とか偏微分(∂)なんてとりあえず、知る必要ありません。
非専門家にとって大事なのは、 Γ(ガンマ)です。
でも・・・
少しは ∇(ベクトルの共変微分)や ∂(ベクトルの偏微分)の意味も知ってみたい・・・という全くの初学者には "眼鏡とペンのアナロジー" がおすすめです。
ちょっと想像してみてください。
あなたの目の前にペンがあります。あなたはそのペンをみています。もしそのペンが曲がってみえたら?
という想像です。
当然ペンが曲がっていると考えますよね?それがふつうです。
しかし、実はあなたは眼鏡をかけています。すると、眼鏡の歪みのせいで曲がってみえているのでは?・・・とも考えられますよね。
これが共変微分のアイデアにつながります。
眼鏡をとおして見えているペンの曲がりが、偏微分「∂」であらわされます(内部世界)。
一方、眼鏡をはずしてみたときのペンの曲がりは、共変微分「∇」であらわされます(外部世界)。
もし「∂」と「∇」に差があれば、その差が眼鏡による歪み: Γ(ガンマ)に相当するというわけです。
天才数学者たちは、眼鏡をかけた状態でのペンの曲がり「∂」と眼鏡をはずしたときのペンの曲がり「∇」の差を Γ(ガンマ)とし、それでメガネの曲率を表す、という高度な空間幾何学を構築していました。
アインシュタインはそのアイデアに飛びついたわけですが、眼鏡をはずしたり、かけたりする部分がどうも気に入らなかったらしく、眼鏡をかけたまま Γ(ガンマ)を知ることができないか?と考えたのです。
共変微分についてもう少し深入りしたい方はこちらもどうぞ。
(注2)この式も見ないほうがいいと思いますが、興味ある人(怖いもの見たさ?)のために書くと次のような式になります。
意味がわかりませんよね?
添字(α、β、γ、δなど)をすべて省き、式をデフォルメして書くとこうなります。
つまるところ「計量テンソル(g)」に関する式なんです。
計量テンソルについて知りたい方は → こちらへ「計量テンソル」
曲面幾何学の世界では、曲がった世界(曲面)の上の一点一点に「計量テンソル(g)」という座標の曲がりをあらわす値を設定できる・・・ そういう前提があります。
なんと「計量テンソル(g)」の値さえわかれば、 Γ(ガンマ)の値を一発で計算できる、というわけです。
わざわざ共変微分(∇)や偏微分(∂)の差をとる必要がありません。
公式を使えば、「計量テンソル(g)」から一発で Γ(ガンマ)の値を求めることができるのです。
おもしろいと思うのは、このアインシュタインの思考回路です。
ふつうの人と反対なんです。
どういうことかというと
ふつう、数学のテキストなどでは
まず最初に「グラフ」が曲面に描かれます。
そのグラフが2つの式(微分)であらわされます。
それぞれ共変微分(∇)と偏微分(∂)です。
この2つの微分から、その差をとって Γ(ガンマ)を求めます。
そして最後に、その Γ(ガンマ)をもとに、曲面上の「計量テンソル(g)」を求める・・・
という思考の流れです。
すなわち「計量テンソル(g)」を最後に求めるのがゴールです。
ところがアインシュタインの思考は逆です。
最初に、曲面の「計量テンソル(g)」を手にします。そこから、"解の公式" 一発で (ガンマ)を求めてしまいます。
そうして得られた Γ(ガンマ)とグラフの偏微分(∂)から、グラフの共変微分(∇)を求めます。
グラフの共変微分(∇)を求めるのがゴールです。
つまり、アインシュタインにとっては、眼鏡をかけた(外部)世界からみたグラフの式が興味の対象なんです・・・
最後に「計量テンソル(g)」を求める、という手順に慣れてしまっている一般の学習者はみな、このアインシュタインの思考回路に戸惑います。
計算もせずにどうやって最初に「計量テンソル(g)」を手に入れるの?
と思うかもしれません。しかし
よくよく考えてみると、曲面の「計量テンソル(g)」は、曲面そのものを、直接、観察すればわかるはずのものです。
グラフの傾きみたいなものでしょうか。グラフの傾きって、いちいち計算で求めなくてもみただけでだいたいわかりますよね?
みなさんの中には、「グラフの傾き」が与えられると、元になる「グラフの式」を想像できる人っていますよね?
計量テンソルもそんな感じです。
同じように「計量テンソル(g)」をみただけで、「曲面の式」を想像できる人たちがいるのではないでしょうか。
「計量テンソル(g)」ナニナニの曲面とか・・・
(傾きナニナニのグラフ・・・みたいに)
実は、アインシュタイン方程式とは、その「計量テンソル(g)」を最初にゲットするための方程式です。
今はちょっと何言ってるのかわからないかもしれませんが、アインシュタイン方程式とは、ひとことで言えば、あるエネルギー(=質量、物体)のまわりの「計量テンソル(g)」を求めるための方程式なんです。
「は?」
という感じかもしれませんが、アインシュタイン方程式を使うと、太陽のまわりの「計量テンソル(g)」などを計算できるようになります。
見たことも行ったこともない星・・・たとえばブラックホールのまわりの「計量テンソル(g)」さえ計算することができます。
すると、それをみただけで、「おぉ、ブラックホールのまわりはこんな感じに曲がってるのか!?」などと楽しむことができる・・・マニアな人たちがいると思います。
その人たちは、まず最初に、ブラックホールのまわりの「計量テンソル(g)」から "解の公式" を使って一発で Γ(ガンマ)を求めてしまいます。
すると、たとえばブラックホールの周囲に描かれた図形や放物線が、ブラックホールの外(ブラックホールから遠く離れた地球)からみてどんな形にみえるのかが、最終的に・・・共変微分(∇)を求めることによってわかるのです。
はい、意味が分からなくても大丈夫です。
超マニアな世界です。
そういう人たちの界隈では、もはや「計量テンソル(g)」とは、天下り式に与えられるものだろう
という話をしています。
ところで、アインシュタインはとても運がいいと思います。
アインシュタインがこの Γ(ガンマ)の"解の公式"を探し始めたとき、この Γ(ガンマ)の "解の公式" は、すでに数学専門の論文に発表されていたのです。
アインシュタインはそれを探してみつけだしただけなんですが、実にラッキーな人だな、と思います。
なぜなら、 Γ(ガンマ)の "解の公式" がすでに論文化されているなんて、当時のアインシュタインには知る由もなかったはずだからです。
当時は今のようにコンピューターで論文を検索できる時代でもありません。
アインシュタインは友人の数学者などに手伝ってもらいながら、数学の専門論文を検索し、あるかどうかもわからないこの Γ(ガンマ)の "解の公式" を必死になって探し求めたそうです。
最終的にこの式を発見した時はかなりうれしかったのではないでしょうか?
運がいいというか、自分に必要なもの、自分が探すべきものがわかっているというのはすごい才覚だとおもいます。
ここから先は、アインシュタインが Γ(ガンマ)の"解の公式"を探した理由になります。
その理由は、この Γ(ガンマ)の "解の公式" にある特徴です。
前述したように、
この式、すべてが偏微分 ∂ のみで、どこをみても共変微分 ∇ が含まれていませんよね?
つまり、前述したように「計量テンソル(g)」という情報さえ手に入れば、この式を使って、共変微分 ∇ なしに Γ(ガンマ)を一発で求めることができます。
というか・・・
アインシュタインは最初から共変微分 ∇ を含まない Γ(ガンマ)の式にこだわっていたのでしょう。
(だから、Γ = ∇ - ∂ では意味がなかったんですね)
しかし、ではなぜ「共変微分 ∇ を含まないこと」にこだわったのでしょうか?
共変微分 ∇ を少し難しく表現すると、1次元うえの視点(膜の外にある座標軸)を利用した微分です。
三次元世界が歪んでいるかどうかを判断するのに4次元世界にある座標を使う、みたいなイメージです。
たとえると、地球の表面がどのように曲がっているかどうかを表現するのに、表面から離れ、地球の外に設定された座標軸を利用するイメージです(鳥の視点"bird's view"とかいったりします)。
共変微分 ∇ を実行するためには、座標系を世界の外に設定する必要があります(専門用語でこれを "外在的(extrinsic)" といったりします)。
考えてみれば、これは直感的にもわかりやすい話で、
面の曲がりをあらわすには、面の外からみた視点が必要だろう・・・
と考えるのはふつうのことです。
そうやって、世界の外側からみた共変微分 ∇ と、世界の内側からみた偏微分 ∂ の差を Γ(ガンマ)とするわけです。
しかしアインシュタインは、それじゃぁ、ダメだ
と考えました。
この世界の内側の情報だけで Γ(ガンマ)を求めたい!
と考えたわけです。
地球の表面が曲がっているかどうかを、外の世界に飛び出さず、地表にいながら判断したい・・・
みたいな感じです(虫の視点"bug's view"といったりします。前述した眼鏡のたとえで言うと、眼鏡をかけて見えるのがインナー世界、bug's view です)。
そして、ついにアインシュタインは、共変微分 ∇ が含まれない Γ(ガンマ)の式を手に入れたのです。
共変微分 ∇ が含まれない
ってことは、その式をつかえば、誰でも自分の世界の内側にいながら Γ(ガンマ) を計算できることを意味します(専門用語では、これを "Γは内在的(intrinsic)である" といったりします)。
そうすると、世界の内側にいながら、この世界を外側からみた様子(共変微分 ∇ の結果など)を想像することができます・・・
この世界がどのように曲がっているかどうかを、この世界の中から表現する
というのは、一見、不可解な気がします。しかし、できるのです。
これには専門家も驚いたようで、
専門家に言わせると「驚異の定理」と呼ばれるほど驚くべきことなんだそうです(けど、別に驚かなくても大丈夫です (^y^))。
(つづく)
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コメント
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わかりやすい説明ありがとうございます!
図中の黄色い矢印は何を表しているでしょうか?
(予想: ベクトル場の流線? スカラー関数にパラメータをつけて向きを設定している?)
投稿: | 2022年5月20日 (金) 05時47分
コメントありがとうございます。図中の黄色い矢印は、ご指摘の通り、流線をイメージしたものです。
投稿: 管理人 | 2022年5月26日 (木) 23時40分