慣性質量 inertial mass と、重力質量 gravitational mass の違い
慣性質量は、物体の動きにくさ
重力質量は、物体が地面に押し付けられる強さ
と定義されています。
もともと
物の動きにくさ=質量
物が地球に押し付けられる強さ=重さ
と別々に定義されましたが、
その後
質量=慣性質量 inertial mass
重さ=重力質量 gravitational mass
と再定義されました。
この慣性質量と重力質量、もともと全然別々のものとして測定されたものであるもかかわらず、その後の観測によると、きわめて高い精度で(=ピタリと)一致することがわかっています。
アインシュタインの等価原理といいます。
何故、一致するのでしょう?
ここに、1トンの戦車があるとします。
地球上でその戦車の重さを測定すると1トンです。
これが、戦車が地球の地面に押し付けられている力です。
戦車は、地球の引力 = 重力加速度(g)で地球の中心に向かって引っ張られています。
その動きを地面にさえぎられた結果、常に地面に押し付けられた状態になっているのです。
その力をはかると1トン。
これが重力質量 gravitational mass = モノが地面に押し付けられている力
です。
では
慣性質量とは何でしょう?
ここに、さっきと同じ戦車があるとします。
しかし、今回は地球上ではありません。
同じ戦車が無重力の宇宙空間に浮かんでいるとします。
あなたが、この戦車を手で押したらどうなるでしょうか?
無重力だから、戦車の重さはゼロ・・・だから、めちゃくちゃ簡単に動くはず?
指でちょんとつついただけで動きそう?
そうでしょうか?
いいえ。
たとえ無重力空間デアあっても、戦車を手で押すと動くのはあなたのほうです。
戦車は、まるで、その宇宙空間に張り付いたかのように、動きません。
この、戦車が「空間に張り付いている」というイメージが、アインシュタインが考えた等価原理の説明を理解する上できわめて重要です。
戦車を動かすためには、空間から引き剥がさなければなりません。
慣性質量が大きい物体ほど、その物体は周囲の空間に強くへばりついている・・・
かのように振舞います。
空間には目に見えない凹み(くぼみ)があり、そこに物体が嵌(はま)りこんでいる感じです。
ちなみに、物体が、空間の凹みにはまっている状態を「静止」といいます(正しくは慣性系にあるといいます)。
戦車のように慣性質量が大きい物体は、深い慣性系(凹み)に嵌まり込んでいます。
はまっている凹みが深い=物が動かしづらい
はまっている凹みが浅い=物が簡単に動きやすい
と、いったらわかりやすいでしょうか?
戦車が嵌っている凹みと、あなたが嵌っている凹みではあなたの凹みのほうがはるかに浅いため、あなたが戦車を押すと、あなたのほうが動いてしまうのです。
でも、
宇宙空間にいると、相対的にどっちが動いたのかわからないのでは?
と、反論する人がいます。
するどいですね。
でも、あることのせいで、目を瞑っていてもどっちが動いたのかがわかるんです(あとで説明します)。
ここでは、まず浅い凹みにはまっている方が動くのだ
と理解してください。
では、この深い凹みにはまっている戦車を動かすには、どうしたらいいでしょう?
戦車より深く空間にはまる(重い)ものを持ってくればいい―――
戦車より深い凹みにはまっている何か重機のようなものを空間に浮かべ、その重機で戦車を押せば、戦車のほうが動きます(重機があまり大きすぎると万有引力の法則で互いに引き合ってしまいますが・・・)
そうすると、戦車を空間から剥がすことができ、戦車が動きだします。
では、そのような重機で戦車を1秒間だけ押したとしましょう。
戦車は動き出します。
その後、力を加えなければ、その後は一定速度で動き続けます。
そのとき、もし、
戦車の移動速度が秒速1メートルだったら、
その戦車の慣性質量は1トンである
と定義するのです。
慣性質量1トンのものを秒速1メートルの速度で動かすには1トンの力で1秒間押す必要があります。
この毎秒1メートルで動いている戦車を、さらに1トンの力で押し続けると、戦車が動くスピードもだんだん速くなります。
このときのスピードの変化率(加速度)を測ることによっても慣性質量がわかります。
慣性質量が1トンであれば、そのときの加速度 = 9.8m/s2(地球の重力加速度)であるはずだからです。
無重力空間にある物体を、地球による重力加速度(g)と同じ加速度で動かし続けるのに必要な力 = 慣性質量 inertial mass です
加速される戦車の動きを見ていると、まるで、地球上の自由落下のようにみえるでしょう。
1トンの力で押し続けた場合に地球上の自由落下のようにみえれば、その戦車の慣性質量 inertial mass は1トンであるともいえるのです
話を戻しますが、慣性質量とは、結局、ある物体を空間から引き剥がすのに必要な力といえます。
ある物体が、空間にへばりついている力と、引き剥がすのに必要な力は「同じ」なのだと、考えるとわかりやすいでしょう。
でも、どうして、慣性質量は重力質量と一致するのでしょうか?
今度は、巨大な象を考えましょう。
この象が無重力空間に浮かんでいるとします。
この象の近くに、突然、地球を近づけると何が起こるでしょう?
誰も触ってもいないのに、象は地球に向けて落ちていきます。
象が引っ張られているのでしょうか?
いいえ!!
不思議なことに、象は地球から引っ張られているとは感じません。
目隠しされていれば、地球に接近していることに気づかないのです。
地球に向かって移動している間、象はずっと無重力空間にいると感じているはずです。
象の移動スピードは、重力加速度(g)で、どんどん速くなっているのに!
です。
ところで―――
重機も何も使わないのに、なぜ、象は動き出したのでしょうか?
象は、無重力空間で深い凹みにはまっていたはずです。
地球の引力が、象に何をしたのでしょうか?
象を空間から引き剥がしたのでしょうか?
いえ・・・
地球は、象を、そのまわりの空間ごと引っ張っているのです。
地球によって、象は空間にハマったまま移動します。
象は空間から引き剥がされないのです。
地球の重力は、象のまわりの空間の凹みのほうに作用し、空間を移動させているのです。
これが重力の正体です。
重力(引力)は、象を引っ張るのではなく、象がはまっている空間のほうを引っ張ります。
象は、空間の凹みにすっぽりと嵌ったまま移動します。
毎秒9.8m/sで加速しながら!
先ほどの1トンで押され続けている戦車―――
この戦車の中に乗っている人は、加速度を感じることができます。戦車の中で常に座席の背もたれか、壁に押し付けられてように感じるでしょう。
押されているのは戦車であって、まわりの空間は動いていません。
したがって、空間から剥がされた感覚が加速度として感じられるのです。
加速度を感じるせいで、自分が動いていることがわかっちゃうのです。
しかし、空間と一緒に動いている象は違います。
まわりの空間といっしょに移動すれば、その空間に嵌っている限り、全く加速度を感じません。
(ここらへんが、アインシュタインが「the happiest thought of my life. (人生最高のアイデア)」とよんでいるポイントで、一般相対性理論にもつながりました!!!)
引力によって移動している象は、すっぽりと周囲の空間の凹みに嵌ったまま移動します。
象は、目隠しされていれば、移動していることすら気づかないでしょう。
象自身は、地球に引っ張られているとは気づきもせず、地球の方向に移動していくのです。
(この空間の凹みとセットになった象の状態を慣性系といいます。つまり、象は物理学的には静止しているのです。)
まさに、自由落下の状態とおなじです。
では―――
象が地球の方向に動きだそうとするときに、何か動かない壁のようなもので象の動きを遮る(象と地球の距離を一定に保つ)とどうなるでしょう?
象がはまっている空間の凹みは、万有引力によって、地球の方向に移動しようとします。
このとき、象の移動を遮ると・・・
空間の凹みは地球の方向に移動しようとしているのに、
象はまわりの空間から引き剥がされてその場に残ることになります。
このとき、象が空間から引き剥がされる力は、先ほど考察した慣性質量 inertial mass です
力は、象の移動を遮る壁のほうにもかかります。
このとき壁にかかっている力が重力質量 gravitational mass です。
作用反作用の法則です。
結局、空間の凹みが地球の方に移動しようとしているのに、象が動かないように壁で支えると、そのとき壁にかかる力(重力質量)は、象が空間からはがされそうになっている力(慣性質量)に等しくなります。
以上、慣性質量 と 重力質量について、どうして等しくなるのか~アインシュタインの等価原理~について、ちょっと解説してみました。
なんだかおもしろいな、と感じていただければ幸いです。
おすすめ記事
最近のコメント