【図解】線積分の絵的な意味
この記事を読むには2変数関数の知識が必要となります。(2変数関数に関するやさしい話は ⇒ こちらをご参考に)
線積分とは2変数関数の積分だからです。
積分については、ふつうの積分(単積分、一重積分、一次元積分)の知識で充分です。重積分の知識は必要ありません。
繰り返します。本記事であつかう線積分は「2変数関数の単積分」のことをいいます。
2変数関数には
スカラー値関数(Scalar valued function)
と
ベクトル値関数(Vector valued function)
があります。
つまり、これらを積分する線積分には、スカラー値関数(Scalar valued function)の積分と、ベクトル値関数(Vector valued function)の積分があることになります。
スカラー値関数(Scalar valued function)とは、以下のような関数です。
2つの変数xとyに数字を入れると、あるスカラー(数字)になります。だからスカラー値関数(Scalar valued function)といいます。
一方、ベクトル値関数(Vector valued function)とは、
みたいな関数です。
2つの変数xとyに数字を入れると、あるベクトル(数字のペア)になります。だからベクトル値関数(Vector valued function)といいいます。
ところで、積分に使われる線素(Line element)にも、スカラーとベクトルがあります。線素スカラー(Line element scalar)と線素ベクトル(Line element vector)です。
まとめると・・・
です。
線積分は、これらの組み合わせによって、次の4つを区別します。
Cというマークは、これが線積分であることを示す記号です。
線積分は、Cについての定義がなければ解けません。かならず、積分とは別にCについて(xとyの関係式を)記述します。
のように。
この連立方程式を解くのが線積分です。
では、これら4つの線積分の一番の違いは何かというと、出力される結果が違います。出力の違いに注目してまとめると以下のようになります(注1)。
いちばん上が、いわゆる「ふつうの線積分」です。
「ふつうの線積分」と非常に紛らわしいのが一番下の「接線線積分」です。
どちらの結果もスカラー値(数字)になります。
本記事では、この「ふつうの線積分」と「接線線積分」の図形的な意味について解説してみたいと思います。
まずは・・・「ふつうの線積分」から。
スカラー値関数(Scalar valued function)に対する積分です。
スカラー値関数(Scalar valued function)とは、以下のような関数です。
スカラー値関数(Scalar valued function)のイメージは、下記のような3次元空間に浮かぶ「曲面」です。
このようなスカラー値関数(Scalar valued function)に対して線積分をおこなうと、どういう図形的意味が得られるのでしょう?
たとえば、Cについて、今
線C:y = x を考えましょう。
式であらわすと
です。
この連立方程式の答えがあらわしているものは何でしょうか?
いつものように結論から言います。
上図のスカラー値関数(Scalar valued function)と、線C:y = x との線積分の結果は、以下の黄色の部分の面積になります(0≤x≤1の範囲で線積分した場合(注2))。
青い線が、線C:y = x です。見えていますか?
線積分があらわしているのは、線C:y = x と局面にはさまれている領域(黄色のところ)です。
ここの面積です。これが「ふつうの線積分」
の結果です(実際の計算は、注2)。
ちなみに、線Cは直線である必要はありません。
たとえば線C:y = x2 との線積分(範囲:0≤x≤1の範囲)の答えは下図の黄色部分の面積です。
これを式で表すと、
です(注3)。
このように、線積分の結果(面積)は沿う線によって異なるのがふつうです。
これが「ふつうの線積分」のイメージです。
次は「接線線積分」について。
では、接線線積分のイメージはどういうものでしょうか?
接線線積分は、ベクトル値関数(Vector valued function)に対して行います。
ベクトル値関数(Vector valued function)とは、たとえば
という関数です。この関数のイメージは下図のようなベクトルの集合(ベクトル場)です。
ベクトル値関数では、xy平面上のすべての点に対して2つの値が設定されています(スカラー値関数では1つの値)。
このベクトル場に対して、たとえば線C(y=x)にそった線積分
を考えるのが接線線積分です。
内積の記号「・」が使われているのは、ベクトル値関数(Vector valued function)と線素ベクトルのどちらもベクトル同士だからです。
(同様に外積の記号を使えば、ベクトル値関数(Vector valued function)と線素ベクトルの(ベクトル同士の)外積の積分を考えることもできますが、この記事では扱いません)
たとえば範囲0≤x≤1の接線線積分であれば、計算式は以下のようになります。
そのイメージは、接線ベクトル線素がその場その場のベクトルとの内積をとりながら、下図のベクトル場(上図を拡大しています)を、(0, 0)から(1, 1)に移動したときの内積の総和です(注4)。
といわれても、ベクトル場で内積をとりながら移動する・・・
この図形的なイメージはわかりにくいです。
しかし、後述するように、この線積分も実に簡単明快な図解イメージがあるのです(むしろ、こっちのほうがカンタン?)。
ひとつひとつ確認していきます。
よくみると
の部分は先ほどのスカラー値関数(Scalar valued function)の線積分になっており、前述した3Dイメージが可能ではないでしょうか。
ただし、スカラー線素がdsではなく、dxやdyとなっている点に注意します。
まず、スカラー線素dsを使った「ふつうの線積分」
を考えると、そのイメージはスカラー値関数(2x + y)があらわす面と、線 (y = x)に挟まれた下図の黄色の部分です(注5)。
では、この「ふつうの線積分」のdsをdxにおきかえた
があらわすイメージは何か?というと、上述の黄色のエリアをxz平面に投影したものなんです。イメージは下図のグリーンの部分です。
これがdsに沿った線積分と、dxに沿った線積分の違いのイメージです。
同様に、線積分
を考えましょう。
まず、dsをつかった「ふつうの線積分」
のイメージは?
スカラー値関数(x - y)があらわす面と、線 (y = x)に挟まれた下図の黄色の部分です(注6)。ちょうど線状になっていて面積はゼロになってしまい、わかりにくいですが。
このエリアをyz平面に投影したもの(面積)が、dsをdyにおきかえた線積分
の結果です。下図のグリーン部分です・・・こちらも線状でグリーンがほとんどみえませんが・・・面積はゼロです。
これがdsに沿った線積分と、dyに沿った線積分の違いのイメージです。
結局、
とは、
をxz平面へ、
をyz平面に投影した両者の投影面積をたしたものです(注4)。
これがベクトル値関数(Vector valued function)の接線線積分
の図形的な意味になります。
しかし、それでもわかりにくいですよね。
実は、この接線線積分のイメージにはもっと明快なものがあります。
下図の曲面に描かれた線分(黄色の線)の始点と終点の高さの差(つまり、黒矢印の長さ)です。
突然出てきたこの曲面は一体なんだ?
という声が聞こえてきそうですが、これはベクトル値関数(Vector valued function)
を、ある方法(注10)で積分して得られたスカラー値関数(Scalar valued function)です。
その式を参考までにお示しすると
です。あれ?どこかでみたことありますね?
この話は、考察(後述)にてもう少しくわしく説明します。
ここで気づいてほしいのは、ベクトル値関数(Vector valued function)の接線線積分の解き方です。
ベクトル値関数(Vector valued function)を解こうと思えば、まずある方法で積分して(注10)、得られた関数にCの始点と終点の値を入れ、その差を求める・・・というカンタンなテクニックがあるということ。
さて。
ベクトル値関数(Vector valued function)に対する接線線積分でも、積分に使う線Cは自由に選ぶことができます。
たとえば線C(y = x2)に沿った線積分は、
です。線C(y = x2)に沿って、0≤x≤1の範囲で線積分した結果は、ベクトルとの内積をとりながら(0, 0)から(1, 1)に移動した場合の内積の総和です(注7)。
これも先ほどの3Dイメージで考えてみましょう。
考えるのは、
です。特に、
の部分は、スカラー値関数(Scalar valued function)の線積分になっています。
ただし、スカラー線素がdsではなく、dxやdyとなっている点に注意します。
まず、スカラー線素dsによるふつうの線積分(注8)
を考えます。そのイメージは下図の通りです(黄色のエリア)。
これをxz平面に投影したもの(面積)が
です。イメージは下図です(グリーンの部分)。
これがdsに沿った線積分と、dxに沿った線積分の違いのイメージです。
次に、線積分(注9)
を考えます。そのイメージはここ(下図の黄色部分)です。
これをyz平面に投影したもの(面積)が
です。そのイメージは下図のグリーン部分です。
これがdsに沿った線積分と、dyに沿った線積分の違いのイメージです。
したがって、
の意味とは、
をxz平面へ、
をyz平面に投影した両者の面積をたしたものに相当します。
これが
の図形的な意味になります(注7)。
それでもわかりにくいですよね。
実は、この接線線積分のイメージにも、前述の接線線積分のイメージと同様なもっと明快なものがあります。
下図の曲面に描かれた線分(黄色の線)の始点と終点の高さの差(つまり、黒矢印の長さ)です。
この曲面は、先ほどもでてきましたが、ベクトル場
をある方法(注10)で積分して得られたもので、その式は、
です。
気づいてほしいのは、ベクトル値関数(Vector valued function)の接線線積分の解き方です。
ベクトル値関数(Vector valued function)を解こうと思えば、まずある方法で積分し(注10)、得られた関数にCの始点と終点の値を入れ、その差を求める・・・つまり、Cの始点と終点だけがわかればいいということ・・・
~考察~
あるベクトル場の線積分(接線線積分)が、あるスカラー場の高低差になる話について、少しくわしく説明してみたいと思います。
この話、どういうことかというと、そういう理論があるんです。こういってしまうと身も蓋もありませんが(汗)
ただし、そのベクトル場(ベクトル値関数 F )とスカラー場(スカラー値関数 F )との間に
という関係が成り立つ場合の話です。
本記事の例の場合をみてみましょう。
スカラー値関数(Scalar valued function)は
ですので、これに∇を作用させてみます。
(∇とは、2変数のスカラー値関数(Scalar valued function)をベクトル線素で微分することです。→ こちらを参照ください)
となり、
ですから、たしかに
が成り立っています。
この関係が成り立つ場合、ベクトル場の線積分(接線線積分)は、そのスカラー場の高低差におきかえることができます。
つまり、ベクトル値関数(Vector valued function)の接線線積分を計算するときは、先に
の関係が成り立つようなスカラー値関数(Scalar valued function)を手に入れてしまえば(手に入れる方法は、注10を参照)、スカラー値関数(Scalar valued function)の式にxとyの値(始点の値と終点の値)を代入するだけで接線線積分の答えが得られます。
つまり、線積分とは言いながら、その計算結果は、線(経路)に依存せず、始点と終点の高さの差になります。
こう考えると、先ほどの2つの接線線積分
と、接線線積分
の結果が一致した理由が図形的によく理解できるのではないでしょうか?
(注1)
それぞれの計算の仕方は以下のようになります。
(注2)
(注3)
(注4)
(注5)
(注6)
(注7)
(注8)
(注9)
(注10)
ベクトル場をあらわすベクトル値関数(Vector valued function)
の成分、f(x, y)、g(x, y)をとりだし、f(x, y)はそのまま、g(x, y)にはx=0を代入し、次の積分を実行します。
すると、あるスカラー値関数(Scalar valued function)=F(x, y) を得ることができます。
たとえば、この手順をベクトル値関数(Vector valued function)
に対して実行してみると、
得られるスカラー値関数(Scalar valued function)は
です。
この2つの関数、元になったベクトル値関数(Vector valued function)と、得られたスカラー値関数(Scalar valued function)の間には特別な関係があります。
ベクトル値関数(Vector valued function)を線素ベクトル(Line element vector)で積分すると、その関係が判明します。
すなわち
つまり
スカラー値関数(Scalar valued function)
を微分したものが、ベクトル値関数(Vector valued function)
になります。
式で表すと
です。
スカラー値関数(Scalar valued function)をベクトル線素(Line element vector)で微分するとベクトル値関数(Vector valued function)になります。
このとき、スカラー値関数(Scalar valued function)
をベクトル値関数(Vector valued function)
のスカラーポテンシャルと言ったります。
ベクトル値関数(Vector valued function)と、そのスカラーポテンシャルの関係は、図でみる方がわかりやすいです。
まず、スカラー値関数(Scalar valued function)
があらわすスカラーポテンシャルは下図のようになります。
上図のスカラーポテンシャルを微分して得られたベクトル値関数(Vector valued function)
を図であらわすと、下図のベクトル場になります。
下図は、スカラーポテンシャルをZ軸方向からみたものです。
このスカラーポテンシャルに、ベクトル値関数(Vector valued function)があらわすベクトル場を重ね合わせてみると、下図のようになります。
等高線と矢印がたがいに直行していることがわかるでしょうか?
スカラーポテンシャルを等高線だと考えると、接線線積分の答えは、横切った等高線の本数に一致します(なので経路に依存しません)。
ベクトル場とスカラーポテンシャルの関係は、反変ベクトルと共変ベクトルの関係に相当します。
反変ベクトル場をスカラーポテンシャルを介さずに、一気に共変ベクトル場に変換すればこうなります。スカラーポテンシャルとベクトル場、共変ベクトル場の関係はこうしてみるとよくわかります。
ベクトル場が示す方向は、スカラーポテンシャル(空間に浮かぶ曲面)のその場その場の最も急峻な方向を示していると言えます。
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