・・・ちょっとだけ共変微分(´~`)
今日、ちょっとだけ変な微分を勉強してみましょう!
アインシュタインの一般相対性理論にでてくる共変微分です。なお、共変微分と共変ベクトルには何の関係もありません。
こういうベクトル場で、縦方向(y方向)や横方向(x方向)にどんな感じでベクトルが変化しているのか?を調べます。あなたならどうしますか?
あるベクトル場vが
と、あらわされているとします。
(具体的な数字で勉強したい人は後述した「注1」をどうぞ!)。
このベクトル場で、縦方向(y方向)や横方向(x方向)にどんな感じでベクトルが変化しているのか?を知るために
このベクトル場vを、x方向とy方向に微分します。
すると、以下のような結果を得ます。
上段がベクトル場vのx方向への変化(x方向への微分)
下段がベクトル場vのy方向への変化(y方向への微分)
です。
基底ベクトルを使ってあらわすと次のようになります。
まとめると・・・
です。
これが、いわゆるふつうのベクトル場の微分です(注1)。
縦方向(y方向)や横方向(x方向)にどんな感じでベクトル場が変化しているのか?をあらわすテクニックです。
では、共変微分とはどんな微分でしょう?
共変微分をひとことで言うと、ベクトル場の微分を「どんな座標軸でも使える」ように工夫したものです。
前述した、ふつうのベクトル場の微分は、正規直交座標でなければ使えません。
座標軸が曲がっていると、ふつうのベクトル場の微分では、縦方向(y方向)や横方向(x方向)にどんな感じでベクトルが変化しているのか?はわからないのです。
座標軸の変化(計量テンソルの変化)を取り除く(または加味する)必要があります。
・・・なんて言われても意味がわかりませんよね?
共変微分を理解する近道は、具体的な手順を知ることです。
それを、わかりやすく以下に示します。
まず、先ほどのベクトル場v
を基底ベクトルを使ってあらわします。
ここが最も大事なステップです。
このときの基底ベクトル(ex, ey)は、正規直交基底((1,0)とか(0,1)とか)みたいな単純なものではありません。
複雑な式になっていたりします(斜交座標とか極座標とか・・・)。
くり返します。ベクトル場v
を、"基底ベクトルも含めて"まるごと微分する のが共変微分です。
具体的には、以下のように微分します。
上段がベクトル場vのx方向への微分
下段がベクトル場vのy方向への微分
です。
連鎖律(合成関数の微分)によって、成分(vx、vy)だけではなく、基底ベクトル(ex, ey)も微分されているのがわかりますか?
共変微分の手順は、本質的にはこれでおわりです。
つまり結果だけを書くと・・・
ベクトル場vの共変微分は
です。
式を整理して次を得ます。
これが共変微分です。完!
・・・と言いたいところですが、専門家は、ここからすごいことをします。
ある「魔法の式」を使って、式の後半にある「∂ex」と「∂ey」(基底ベクトルの微分)を消してしまうんです。
その「魔法の式」とは以下のようなものです。
式の中にある見慣れない記号 Γ をクリストッフェル記号と言います。
詳細は省きますが、今のところは別途(比較的カンタンに)算出できる、ただの数字(係数)と思ってください(注2)。
この「魔法の式」を先ほどの共変微分の結果に代入し、式を整理すると以下を得ます。
逆にわかりにくくなったと思うかもしれませんが、よ~く見てください。
見事、「∂ex」と「∂ey」がなくなって、きれいなベクトル形式
になっています。
魔法の式で「∂ex」と「∂ey」(基底ベクトルの微分)を消してしまう・・・これぞ共変微分の真骨頂です。
(なぜか専門書では、ほとんど強調されませんが...)
カッコの中身は全部同じ形なので、下記のように書き変えるのが流儀です。
共変微分としてよく教科書に紹介されている式はこの部分です(これが共変微分だといわれても初学者には意味が分かりませんよね)。
結論です。
ベクトル場 v の共変微分は次のようにあらわされます。
完!!
・・・
なんだか今ひとつ重要性が伝わってない気がするので、もう一度強調しておきます。
この形式であらわすことによって
ふつうのベクトル場の微分
と、ベクトル場の共変微分
の結果を比較しやすいですよね。
共変微分の成分は、ふつうの微分の成分に補正係数(Γ)を足したものになっています。
です。
これで正真正銘
完!!!
です。
どうしても、ピンと来ない方は以下の注で具体例を読んでみてください。
なお、本記事は平面上に描かれた座標における共変微分を紹介しました。しかし、ここで紹介したクリストッフェル記号(Γ)はすごいです。なんと、曲面上に描かれた座標でさえ共変微分を可能にしてしまいます。非常に不思議なんですがクリストッフェル記号(Γ)は平面世界を突破するんです。ほんとびっくりです。
(注1)
ベクトル場v
は、たとえば、vx = 2、 vy = 1であれば
です。
正規直交座標に描かれたベクトル場
をふつうに微分すると、以下のようになります。
すなわち、
です。
x方向へもy方向へもゼロになります。
x方向にもy方向にもベクトルの変化がみられないという意味です。
このベクトル場
を図示してみると、以下のようになります。
たしかに、このベクトル場、x方向にもy方向にも変化がみられませんよね?
こういうベクトル場をふつうに微分すると、x方向であれ、y方向であれ、全方向でゼロになるのは直感的に納得できると思います。
くり返しますが、微分がゼロ、すなわち、
というのは、x方向にもy方向にもベクトルの変化がみられないことを意味します。
しかし、ベクトル場
ではどうでしょう?
vx = 2x + 1、
vy = x - y
です。
このベクトル場を図示すると、次のようになります。
こんなベクトル場では、ふつうの微分がx方向にもy方向にもゼロにはならないことが予想できます。
では実際に、このベクトル場をふつうに微分してみましょう。
すなわち、
です。
予想通り、x方向へもy方向にもゼロにはなりませんでした。
では、次のようなベクトル場はどうでしょう?
ベクトル場は一様でないようにみえます。
ふつうの微分はどんな値になるでしょう?
計算・・・難しそう?
いえ、わざわざ計算する必要ありません。結果は、
です。x方向へもy方向へも変化していません。
なぜなら、図示したベクトル場の直前の行(図の真上)を見てください。
そこに
と書いてあるではないですか!
なのですから、vx =2,vy =1なんです。つまり、vx も vy も微分したらゼロです。
もしも、この座標世界の内側に入り込むことができたら?
そこからみたベクトル場はこんな感じです。
一様です。x方向へもy方向へも変化していません。
一様ではないようにみえたのは、座標軸のゆがみの影響を受けていただけです。
内部世界の住人は、まさか自分たちの座標が外からみると歪んでいるなんて思っていないでしょう。
ふつうの微分は、この内部世界の「みため」をあらわしているんです。
一方、共変微分は外部世界からみた「みため」をあらわします。
座標軸の歪みのせいで、ベクトル場が歪んでましたよね?
そうのようなとき、共変微分の結果はx方向にもy方向にもゼロになりません。
内部世界の座標軸が外部世界からみて歪んでいる場合、ふつうの微分と共変微分の結果が一致しないのです。
共変微分とは、誤解を恐れずに言えば、内部世界から飛び出して、外の視点で微分することです。
外部世界からみると、基底そのものの変化(座標軸の曲がり)が検出されます。
逆に、ふつうの微分とは、内部世界からみた微分です。
この例の場合、ふつうの微分はx方向にもy方向にもゼロですが、共変微分の結果はx方向にもy方向にもゼロになりません(計算略)。
もう一つだけ、例をみておきましょう。
次の絵は、あるベクトル場を外部世界から観察した様子です。
このベクトル場のふつうの微分は以下のようになります。
x方向にもy方向にもゼロにはなりません。
ふつうの微分とは内部世界からみた微分です。
この内部世界に入り込むと、このベクトル場はこうみえています。
外部世界からみた場合と同じです。
このように、内部世界の「みため」が外部世界からみた「みため」と一致している場合、共変微分はふつうの微分と一致します。
くどくどと説明しましたが、共変微分とは、まぁ、そういう微分です。
(注2)
クリストッフェル記号(Γ)の値は計量テンソルgから求めます。gxxは計量テンソルの第一成分、gxyは第二成分、gyxは第三成分、gyyは第四成分です。
計量テンソルには添字が上付きのモノと下つきのものがあります。
計量テンソルからクリストッフェル記号(Γ)の値を求める式を記しておきます。二次元では8つあります。超めんどくさそうにみえますが、計量テンソルgの値さえわかればすべての値を一発で計算できます。
ためしに、極座標基底におけるクリストッフェル記号(Γ)の値をひとつだけ計算してみましょう。極座標の計量テンソル(第一成分、第二成分、第三成分、第四成分)は以下の通りです。ただし、極座標ですから(x,y)を(r,θ)に書き換えています。
この計量テンソルの情報から次のようなことがわかります。
これらの情報を利用して、クリストッフェル記号(Γ)の値を計算します。ここでは一つだけ計算しますが、他の記号も簡単に計算できます。
追記1
ベクトル場
を正規直交基底で図示すると以下のようになります。
しかし、同じベクトル場
を極座標基底で表示すると、
のように渦を巻きます。
同じベクトル
でも、用いる基底ベクトルによって、あらわれるベクトル場はこんなにも違います。
正規直交座標では、座標全体を通して基底ベクトルに変化が生じません。
したがって基底ベクトルの微分「∂e」は必ずゼロ(Γ = 0)になり消失します。
その結果、共変微分は、成分のみを微分したふつうの微分に一致します。
ところが、極座標の場合、基底ベクトルの大きさや方向が場所から場所で変化します。
したがって基底ベクトルの微分がゼロになりません(Γ ≠ 0)。
つまり、極座標基底であらわされたベクトル場 v
を共変微分した結果は、
とはなりません。
実際に極座標基底であらわされたベクトル場 v の共変微分を計算してみましょう。
本文中でやったようにベクトル場 v をr方向とθ方向に、基底も含めて、微分します。
次の式を得ます。
基底ベクトルの微分をクリストッフェル記号(Γ)で置き換えます。
次の式を得ます。
目的のベクトルは次のように表されます。
ただし、真ん中の行列の成分は以下の公式から求めます。
クリストッフェル記号(Γ)を計算し、以下を得ます。
最終的に以下を得ます。
これが、極座標基底であらわされたベクトル場 v の共変微分です。
展開すると、
こうなります。これがベクトル場vを共変微分した結果です。
追記2
極座標基底で表示されたベクトル場
で、ふつうの微分と共変微分を比べてしてみましょう。
極座標基底であらわされたベクトル場
を図示すると以下のようになります。
まず、ふつうの微分をしてみます。
すなわち、結果は
と、r方向もθ方向もゼロになりました。
これはどういう意味でしょう?
もし、この極座標の中に入り込むことができれば、内部世界の住人にはこのベクトル場はこうみえているのです。
そもそも、すべてのベクトルは
なのですからあたりまえと言えば、あたりまえです。
このベクトル場のベクトルは各々の基底からみるとすべて同じなんです。
渦を巻いてみえるのは、実は基底の影響をうけて大きさや方向が違ってみえるだけ、ということです。
次に、共変微分をしてみましょう・・・
すなわち、
となります。r方向もθ方向もゼロにはなりません。
ふつうの微分がゼロなのに、共変微分がゼロでないというのは、基底そのものが場所から場所で変化していることを意味します。
共変微分は、外の視点(外にある正規直交座標系)を使ったベクトル場の微分です。
繰り返しになりますが、このベクトル場は、外の視点からみるとこう見えています。
でも、極座標の中からはこうみえているのです。
追記3
正規直交基底であらわされたベクトル場
の共変微分はふつうの微分に一致し、
です。
しかし、極座標基底であらわされたベクトル場の共変微分は、クリストッフェル記号(Γ)にゼロ以外の値がはいるため、ふつうの微分
とは一致しません。
追記4
正規直交座標におけるベクトル場(A,B)を考える。A、Bは定数とする。
これを極座標基底であらわすと以下のようになる。
たとえば、外部世界に設定されている正規直交座標におけるベクトル場
があるとする。ここから座標軸を取り除き、ベクトル場だけをとりだしてみる・・・
これを、そっと極座標基底に重ね合わせてみる。
このベクトル場を、極座標基底をつかって再現するにはどうすればいいだろう?
ベクトル成分を
としたままでは
のようにベクトルが渦を巻いてしまう。
ここで先ほどのベクトルの変換公式
が役に立つ。
ベクトル
を公式にしたがって
と変換してやる。
これをグラフにしてみよう・・・すると、
みごと、極座標の上にベクトル場
を再現できた!
ベクトルの成分は
から
に変換されているが、
ベクトル場の "みため" は、正規直交座標におけるベクトル場
と同じベクトル場だ。
では、あらためてこのベクトル場
を、ふつうに偏微分してみようと思う。
ベクトルは一様にみえるのでゼロになるだろうか?
確かめてみよう。
極座標基底であらわされているベクトル場をふつうに微分するのだから、このベクトル場を、r方向とθ方向に偏微分することになる。すると、
すなわち、
となる。
ゼロにはならなかった。
この意味するところは何だろう?
極座標基底からみると、このベクトル場は一様ではない、ということである。
実際、この極座標世界の「内部」に入り込むと、このベクトル場はこんな風にみえている・・・
グラフにしてみると、こうだ。
横軸が r、縦軸が θ だ。
これが、極座標の内部からみた、先ほどのベクトル場の様子である。
なるほど、まったく一様ではない。
ほんとうに同じベクトル場なのかと疑いたくなるほど違う。
そもそも極座標世界に住んでいる住人は、自分たちの世界を極座標世界だとは思っていない。彼らは自分たちは正規直交世界に住んでいると思っている。だから、こういうことがおこるのだ。
では、この一様でないベクトル場を、共変微分するとどうなるか。やってみると・・・
このように、みごと全部ゼロになる。つまり、
である。
r方向とθ方向に共変微分した結果がゼロ・・・
何度も前述しているが、極座標基底そのもの(基底ベクトルの)の微分(Γ)はゼロではない。
にもかかわらず、ベクトル場
の共変微分の結果はそれを打ち消すようにゼロになった。
このベクトル場の r 方向と θ 方向への共変微分がゼロになることを一瞬でわかる人はそうそういないであろう。
この意味するところは、このベクトル場を外部世界からみると一様であるということだ。
このように極座標を抜け出して、外部からみるのが共変微分だ。
r方向であろうがθ方向であろうが、全方向にベクトルの変化はみられない。
内部世界を無視すれば、このベクトル場はこういうことである。
もともと、正規直交座標上に描かれたベクトル場(2, 1)を元にした話だから、あたりまえか・・・
というか、共変微分の目的はそういうことなのだ。
共変微分とは、座標系を飛び出し、外の視点(外部世界に設定されている正規直交座標系)からベクトル場を観察することだ。
そう考えると、
あるベクトル場の共変微分がゼロならば、そのベクトル場は、他のどんな座標系で表示されていても、その共変微分はゼロになる
というのもあたりまえにきこえる。
共変微分をすれば、どんな曲がった座標系からも抜け出してしまうのだ。
共変微分とは、そういう微分だ。
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