【図解】極座標基底によるベクトル表示
正規直交座標があるとします。
こういう座標における基底は、座標のありとあらゆる場所で、どこでも同じ大きさと方向をもっています。
なので・・・
下図のようなベクトルの大きさと方向を表示しようとすれば
どの基底を選んでも
結果は
同じになるでしょう。しかし、下図のような極座標では
基底(極座標基底)の大きさや方向が
ところによってバラバラです。なので、
ベクトルの大きさや方向を表示しようと思っても
どの基底を選ぶかで結果が変わってきます。
たとえば前述のベクトル(2,3)は、次の基底を選ぶと
必ずしも(2,3)になるわけではありません。
計算してみると、ベクトル(3.23,0.8)となります。
これが"極座標基底によるベクトル表示"です。
ちなみに・・・
高校数学で習う
ベクトル(r,θ)= ベクトル(2,0.52)
みたいな表示は単なる"ベクトルの極座標表示"です。"極座標基底によるベクトル表示"とは全く異なるものです。
注意しましょう。
おしまい!
といいたいところですけど・・・w(゚o゚)w・・・
ちょっと説明不足ですかね
もう少し具体的に説明すると
上述したベクトル(3.23,0.8)は、どのようにしたら求まるのでしょう?
計算の方法があるのです。
まず、選んた "基底の場所" を極座標(r,θ)であらわします。
この点(r,θ)に存在する基底を、極座標基底(erとeθ)といいます。
ベクトルを、この極座標基底(erとeθ)を使ってあらわすのが"極座標基底によるベクトル表示"です。
極座標基底(erとeθ)の場所が、原点から(r,θ)だけ離れていることに注意してください。
難しいのは、
極座標基底(erとeθ)を、正規直交基底(exとey)であらわすところです。
先に答えを言ってしまうと・・・
er = (cosθ,sinθ)= (cosθ)ex + (sinθ)ey
eθ =(-rsinθ,rcosθ)= -r(sinθ)ex + r(cosθ)ey
です。必ずこうなります。
考え方は下図を参照ください。
つまるところ「極座標基底によるベクトル表示」とは、
正規直交基底(exとey)であらわされているベクトル(A,B)が、極座標基底(erとeθ)では、どう表されるか?
という問題です。
(たくさんの人が誤解していますが、ベクトルをrとθであらわす「ベクトルの極座標表示」ではありません!)
答えは
( Acosθ + Bsinθ, -(A/r)sinθ + (B/r)cosθ )
です(注1)。
これだけ覚えれば済む話です。
ベクトルの変換式は
です。
(A,B)は正規直交座標であらわされた(2,3)のような数値の組み合わせ、あるいは(2x + y, x - y)のような関数でも構いません。
前出の図からもわかるように
er = (cosθ,sinθ)= (cosθ)ex + (sinθ)ey
eθ =(-rsinθ,rcosθ)= -r(sinθ)ex + r(cosθ)ey
となるように erとeθ を決定しています。ルール上、erとeθは直交し、erのサイズは「1」、eθのサイズは「r」と決まっています。
具体例で考えてみましょう。
たとえば先ほどの正規直交系のベクトル(2,3)。
このベクトルを、点(r,θ)= (2,0.52)を起点とする下図の極座標基底であらわすとどうなるか?
という問題を考えてみましょう。
やることは簡単で、先ほどの公式
( Acosθ + Bsinθ, -(A/r)sinθ + (B/r)cosθ )
を使います。
これに
正規直交座標でのベクトル表示(A, B) = (2,3)
と
極座標基底の場所(r,θ) = (2,0.52)
を代入すればいいだけの話です。
答えは、ベクトル(3.23,0.8)となります(注2)。
すなわち、
2ex + 3ey = 3.23er + 0.8eθ
です。
逆に言うと、この式が成立するように erとeθ が決定されています。極座標基底 erとeθ を求める式は
er = (cosθ,sinθ)= (cosθ)ex + (sinθ)ey
eθ =(-rsinθ,rcosθ)= -r(sinθ)ex + r(cosθ)ey
です。
これが"極座標基底によるベクトル表示"です。
もう一つ例を考えてみましょう。
たとえば正規直交系で(4,-1)とあらわされているベクトルは
点(r,θ)= (2,0.52)を起点とする極座標基底をつかうと、どうあらわされるでしょうか?
やることは単純です。
(A, B) = (4,-1)
(r,θ) = (2,0.52)
を
( Acosθ + Bsinθ, -(A/r)sinθ + (B/r)cosθ )
に代入すればいいだけの話です。
答えは、ベクトル(2.96,-1.43)です。
すなわち
4ex - 1ey = 2.96er - 1.43eθ
です。
さて。
こんなことをして、いったい何になるのでしょう?
これも答えを言ってしまうと、こうすることによってベクトル表示をテンソルとして扱うことができるようになるんです(テンソルってなに?という方はこちらをご参照ください)。
ちなみに・・・何度も言いますが
ベクトル(r,θ)
のようにベクトルを極座標で表示したものは、"極座標基底によるベクトル表示"ではありません。
なので"ベクトルの極座標表示"は当然テンソルにもなりません。
ベクトルの極座標表示
極座標基底によるベクトル表示
名前が似ているので注意しましょう(注3)。
(注1)
正規直交座標パラメータ(ⅹ,y)から極座標パラメータ(r,θ)への座標変換は、公式に従うと、以下のようになります。
ここで
ですから・・・
です。結果として、以下の成分変換式が成り立ちます。
くどいようですが・・・
ベクトル(A,B)は正規直交座標であらわされたベクトルです。
そのベクトルの起点が(x,y)です。この起点(x,y)を極座標表示であらわすと起点(r,θ)です。
その起点に設置されているのが極座標基底(er、eθ)です。
ルール上、erとeθは直交し、erの方向はr方向、サイズは「1」、eθのサイズは「r」と決まっています。
この極座標基底(erやeθ)を使うとベクトル(A,B)はどう表されるのか?という問題です。
その答えは、
(Acosθ + Bsinθ, -(A/r)sinθ + (B/r)cosθ)
です。
ベクトル(A,B)の極座標表示を知りたいのではありません。
(注2)
ベクトル(3.23,0.8)は反変表示です。その共変表示は(3.23,3.2)です。したがって、ベクトルのサイズは不変に保たれています。
√(22+32)= √13
√((3.23)*(3.23)+(0.8)*(3.2))=√13
(注3)
たとえば、ベクトル(2,3)の極座標表示(r,θ)は(3.61,0.98)、ベクトル(4,-1)の極座標表示(r,θ)は(4.12,6.04)だから・・・
2ex + 3ey = 3.61er + 0.98eθ
4ex - 1ey = 4.12er + 6.04eθ
などとしても、そういうerやeθは見つかりません。そもそも極座標表示(r,θ)は ベクトル(テンソル)ではありません。極座標表示(r,θ)と"極座標基底(erやeθ)によるベクトル表示"の違いにはくれぐれも注意しましょう。
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