たぶんこの世で二番目にやさしいテンソルの話 ~ゆる~く計算してみる編~
以前、テンソルについてできるだけ数式を使わない解説を試みましたが、今回、少しだけ計算式を使って説明してみることにしました。
縮約はでてきません。省略もしません。2次元座標に限ります。xとyを1と2に変換したりもしません。
本解説を読破するために最低必要な事前知識は以下の3つでしょうか・・・。
1.全微分の公式



2.全微分の変数変換公式
座標(基底)を変換する場合は、合成関数の微分(いわゆる連鎖律)によって偏微分係数を変換します。
3.ベクトルの成分変換公式

この3つが理解できたら準備完了です。ま、別に理解できなくても、表面的に覚えてしまえばそれで十分かも・・・です笑。
【1日目】
XY座標にふたつのベクトルを用意します。
ベクトルV1とV2です。

上段がベクトルV1、下段がベクトルV2です。
V1=(2,3)とか V2 =(4、-1)とか、なんでも構わないのです。けど、ここではちょっとカッコつけて文字表記にします。
文字表記はイヤだ・・・という人は後述の「おまけ」具体例バージョンをご覧ください。
では、このベクトルV1とV2からXY座標でテンソルV12(XY座標)をつくってみましょう。
テンソルをつくるのはカンタンで、ベクトルの成分同士を "すべて掛け合わせて、ならべる" だけです。

この一番右辺・・・4つの数字のセット・・・がテンソルになります。
次に、これとまったく同じことを別の座標(Rθと名づけましょう!)でやります。
座標をRθ座標に変換すると、ベクトルの成分が変わります。どうかわるかというと、
前述した成分変換公式にしたがいます。
今、ベクトルの成分変換公式によって、ベクトルV1とV2の表示が下記のように変換されたとしましょう。

これらベクトルの座標変換前後の各成分には以下の関係式が成り立っているはずです(ベクトルの成分変換公式より)。

まとめると以下のようになります。別にまとめなくてもいいですが・・・

上段がベクトルV1、下段がベクトルV2です。
つまり、これが
ベクトルV1とベクトルV2の
Rθ座標(座標変換後)におけるベクトル表示
です。
XY座標(座標変換前)におけるベクトル表示
との関係…ともいえるでしょうか。
以上をふまえて、Rθ座標でもテンソルV12(Rθ座標)をつくってみましょう。

できました。右辺の4つの数字のセットがテンソルです。
このテンソルV12(Rθ座標)を、ベクトルV1とV2のXY座標成分

を使ってあらわしてみたいと思います。
なぜ、そんなことをするのかというと・・・
変換式があるかどうかを確認するためです。
いや、つまり、どういうことかというと
テンソルV12(XY座標)とテンソルV12(Rθ座標)は、どちらも同じベクトルからつくられたものです。
よね?
なので"みため"(=成分)は違っても、同じテンソルであるはずです。
ところが。
厳密な専門家たちにとっては、このふたつのテンソルが、ほんとうに同じものか?
いや、そもそもテンソルなのか?が自明ではありません。
どういうことかというと・・・
「もし、このふたつのテンソル(ベクトルV1とV2からXY座標でつくられたテンソルV12と、Rθ座標でベクトルV1とV2からつくられたテンソルV12)の間に座標変換式が存在すれば、それらは確かにテンソルだろう。したがって、まぁ両者は同じものといってよいだろう・・・、しかしそれまでは軽々しく同じ名前であらわしたり、そもそもテンソルという敬称で呼ぶな」
というわけです。
しかし、これらがテンソルであることは数々の専門書ですでに証明済みのことですし・・・
と言いたい気持ちをグッと抑えて、ここは、テンソルV12が確かにテンソルであることを確認してみたいと思います。
具体的には、「変換式があるかどうか」を確認するのです。
では、いよいよ
テンソルV12(Rθ座標)を、ベクトルV1とV2のXY座標成分を使ってあらわしてみます。

式を展開すると・・・

ややこしくなってきましたが、行列を使ってまとめると・・・

左辺はテンソルV12(Rθ座標)そのものです。
さらにまとめると、最終的に次のようになります。

できました (o^-‘)bグッ!!
右辺にテンソルV12(XY座標)が現れました。
みごとに、テンソルV12(XY座標)からテンソルV12(Rθ座標)への変換式になりました。
これが、テンソルV12がテンソルであること(=成分変化が整然と規則的に無機的に生じていること)を証明しています。
どういうことかというと、
もし次のように「C」などという余計な項がつくようであれば、それはテンソルではなかった(←座標を超える線型性はないだろう)・・・というわけです(注2)。

しかしそうではなかったわけですから、テンソルV12(Rθ座標)とテンソルV12(XY座標)はともにテンソルであり、したがってそれらは(成分表示が違うだけで)同一のものとみなしてよい・・・と結論できます。
(注1)
なぜこうなるかというと、以下ご参照ください。基底ベクトルを変換する公式が使われます。


なお、Rとかθはふつう極座標基底に用いられますが、この記事では単に基底を区別するための文字として使用しています。もちろん極座標基底としても構いません。極座標基底によるベクトル表示についてはこちらをご参照ください。
(注2)
テンソルには、ある座標で
であれば、他のすべての座標で

でなければならないという一丁目一番地ともいうべき決まりがあります。なので変換式に定数Cなどあってはならないのです。
おまけ
文字表記がイヤだ!という人のために、具体的な数字で考えてみます。
下記のようなベクトルV1とV2を考えます。

ベクトル(2,3)と(4,-1)です。
このベクトルは、勝手につくりました。みなさんも勝手につくってみてください。

つづいて座標変換をおこないます。
基底ベクトルが、

から

へ、かわったとしましょう。
すると、ベクトルの空間的位置はそのままで、座標軸のみが動きます。

この座標変換によって、ベクトル表示が、以下の式に従って変化します(ベクトルの座標変換ですね)。

その結果、新しい座標(Rθ座標)におけるベクトルV1とV2の表示は

となりました。
さぁ、これで下準備完了です。
では、まず・・・
XY座標で、ベクトル(2,3)と(4,-1)から、テンソルV12(XY座標)をつくってみましょう。
ベクトルV1とV2のXY座標成分を順次掛け合わせて並べるだけです。
2x4=8,2x-1=ー2,3x4=12、3x-1=ー3・・・
つまり

です。これが、テンソルV12(XY座標)です。
同様に、Rθ座標で表示されているベクトルV1(0.6,0.8)とV2(2.6,-1.2)からもテンソルV12(Rθ座標)をつくってみましょう。
ベクトルV1とV2のRθ座標成分をすべて掛け合わせて並べるだけです。
0.6x2.6=1.56,0.6xー1..2=ー0.72,0.8x2.6=2.08,0.8xー1.2=ー0.96・・・
つまり

です。これがテンソルV12(Rθ座標)です。
この4つの数字を覚えておきます。
つぎに、ちょっと天下り的 ~ 唐突ですが、以下の行列を考えてみましょう(なんで?と聞かず苦笑)。

ベクトルの座標変換の公式
と、今回の座標変換の式

の係数を見比べることによって

であることがわかります。これをもとにひとつひとつ計算していくと・・・

であることがわかります。
これをテンソルV12(XY座標)

に作用させてみましょう(作用とは、掛け算のことです)。すると・・・

なんと!!!
先ほど得られていたテンソルV12(Rθ座標)
と全く同じものが得られました。
これは偶然ではありません。
このことから、先ほどの天下りの

はXY座標からRθ座標へのテンソルの変換式に使えることが判明したと同時に、ベクトルV1とV2の成分をすべて掛け合わせて作られたテンソルV12は確かにテンソルといえることもわかりました。
また、余談ですが
は、テンソルに作用して別のテンソルを作りだしたことになります。このように「テンソルに作用して別のテンソルをつくるもの」ものをテンソルという、というテンソルの定義があります。
するとこの行列(数字のセット)もテンソルといえます。
鶏と卵みたいな話ですが・・・
このような具体的な説明が好みの方は、ぜひ、こちらもご覧ください
【2日目】
前述したXY座標でつくられたテンソルV12とRθ座標でつくられたテンソルV12の関係を再掲します。

この式を特殊な方式で書くと、以下のようになります(注3)。

えっと・・・目が点になっている人が多いと思いますが、この式を信じる信じないはおいといて・・・今からルールにしたがって少しずつ式を展開していきますのでその様子をご確認ください。
まず、両サイドの⊗を処理します。

次に真ん中の⊗を処理すると以下のようになります。

最後の⊗を処理すると、最終的に次式を得ます。
前述したテンソルの座標変換式とまったく同一のものが得られました。
では・・・・
テンソルの座標変換とベクトルの座標変換の係数を比較してみましょう。
テンソルの座標変換公式

ベクトルの座標変換公式

こうしてみると、テンソルの座標変換は、ベクトルの座標変換に完全に依存していることが見てとれます。
つまり、ベクトルの座標変換が成り立つ限り、テンソルの座標変換も必ず成立するのです。
(注3)
この形式は厳密ではないかもしれませんし、あるいは、すでに誰かが開発している確かな方法なのかもしれませんが、従来より管理人が個人的に勝手に愛用している方法で、区分行列を一つの成分とみなしながら、クロネッカー積のような積を外側から処理していく方法です。非常に見通しがよく今のところ常に正しい変換行列を得るので利用しています。ただし、決して、正式な場で使用しないでください。
【3日目】
今回は計量テンソルについて考えてみます。正規直交座標で成り立つ三平方の定理

は本当は以下のような形をしていると、専門書は言います。

は?って感じです。専門書によると正規直交系では計量テンソルの働きによってdxdyやdydxの項がゼロになっているのだと・・・。
どういうことなのでしょう?
まず、全微分の公式を使って、dxとdyを別の基底で書き変えてみます。

これらの公式を使って前述の式の右辺を書き変えると、

さらに展開します。

この展開式を、係数に注意しながら、さらに次のように変形します。

行列でまとめます。

この式を特殊な方法で書くと・・・次のようになります。
さらにまとめていくと・・・ちょっと途中で長くなってしまいますが、次のようになります・・・

最終的に、以下を得ます。
次の部分がいわゆる計量テンソルを構成する部分です。

XY座標からRθ座標への基底変換の式(以下)とよ~く見比べてください。係数が完全に一致しているわけではありませんが・・・

計量テンソルは、この基底変換に使われる係数に100%支配されていることがわかると思います。
計量テンソル構成する4つの成分は次の式をみればわかります(前述の式を再掲)。

この式が、

という形になっていることに注目してください。
つまり、冒頭の式は、

と書き変えることができます。(1 0 0 1)とか(A B C D)の部分がズバリ「計量テンソル」です。直交基底のときは計量テンソルが(1 0 0 1)になり、典型的な三平方の定理

となります。
【4日目】
今回は共変ベクトルをふたつ(V1とV2)用意します。そのXY座標での座標表示、Rθ座標表示を以下のように定めます。

共変ベクトルの成分変換は、

ではなく、

であることに注意しましょう。ベクトルV1およびV2の成分も、この法則に従い、以下のように変換されるとします。

つまり、

です。ここからテンソルV12をつくります。

できました。成分が違いますが両者とも同じテンソルです。その証拠にそれぞれのテンソル成分には以下の関係式が成り立っているはずです。

式を一度展開してみます。

まとめなおすと以下のようになります。

テンソルの成分表示が、基底変換に応じて整然と規則的に変化することがわかります。
これを特殊な形式であらわすと・・・以下のようになります。

ベクトルの座標変換公式と見比べてみてください。

それぞれの係数比較により、テンソルの座標変換がベクトルの座標変換に完全に依存していることがわかります。また、今回は計量テンソルを構成する成分(以下参照)とも比べてみましょう。

計量テンソルと共変テンソルの密接な関係が見えてきます。
【5日目】
今回は、基底を考えてみます。基底を考慮すると式が非常に複雑になるので逃げたい気分なんですが、ちょっと頑張ってみます。1日目で考察したベクトルV1とV2 は基底を使えば以下のようにあらわせます。

ベクトルV1とV2 のRθ座標は、XY座標表示を使って以下のようあらわされます。


ベクトルV1とV2 からテンソルV12(Rθ座標)をつくります。

式を展開します。

基底の変換には以下の式を適用します。

これを前述の式に代入します。

式を部分的に展開し、

行列の形にします。

特殊な形式でまとめます。

さらにまとめていくと・・・
途中、式がやたらと長くなりますが、最終的には以下のようにまとまります。

これがテンソルの変換式です。
ベクトルV1とV2からつくられるテンソルV12についても同様の考察が可能です。
複雑すぎて書きたくないので(苦笑)最終的な変換式のみ示します。

共変テンソルの変換式には、計量テンソルで考察した次の式をそのまま適用できることがわかります。

おまけ
既出の反変テンソル、共変テンソルの座標変換に加え、混合テンソルについても変換式だけアップしておきます。
(2,0)テンソルの座標変換
「反変ベクトル⊗反変ベクトル」としてつくられた反変テンソルについて

(0,2)テンソルの座標変換
「共変ベクトル⊗共変ベクトル」としてつくられた共変テンソルについて

(1,1)テンソルの座標変換
「反変ベクトル⊗共変ベクトル」としてつくられた混合テンソルについて

「共変ベクトル⊗反変ベクトル」としてつくられた混合テンソルについて

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