【図解】計量テンソルって? たぶん世界一わかりやすい計量テンソルの話 The Metric Tensor 基礎の基礎
計量テンソルって、簡単に言うと、あらゆる三角形で「三平方の定理」を成り立たせる
魔法の数字
です。
ふつう、みなさんが習った「三平方の定理」(別名:ピタゴラスの定理)はコレですよね?
直角三角形のときに成り立つ3辺(A,B,C)の関係式です。
同じような式が、直角三角形じゃなくても、成り立つんじゃないか?
そんなことを考えた数学者はいっぱいいました。
素人的には、下記の係数をいろいろ変えるとうまくいくかも?・・・と思いますよね?
まぁ実際そんな感じで・・・
今では、つぎの式が「どんな三角形」でも成り立つことがわかっています。
4つの係数をうまく選べば、この式がありとあらゆる三角形で成り立ちます。
まさに三平方の定理「上級バージョン」です。
a・A・A + b・ A・B + c・ B・A + d・ B・B = C2
と言われても、この4つの係数(a、b、c、d)がいったい何なのか・・・気になりますよね?あとで説明します。
(先に言っちゃうと計量テンソルはこの係数と深い関係があります。覚えておいてください)
行列を使って式を書き直すと、もっとスッキリします。
三平方の定理「上級バージョン」、スッキリ系です。
わかりにくくなった・・・と思う人もいるかもしれませんが
この真ん中の行列(a、b、c、d)
a | b |
c | d |
が三角形の辺の長さの関係、すなわち「三角形の形」を決めている、ともいえるのです。
では、この係数(a、b、c、d)
a | b |
c | d |
は、どのようにして求めるのでしょうか?
意外に簡単です。
たとえば、∠AB の外角 が「θ」なら、(a、b、c、d)の値は、
1 | cosθ |
cosθ | 1 |
になります(証明は下図参照。または余弦定理から求めることもできます)。
つまり、あるひとつの外角 「θ」。
これさえわかれば、一発で係数(a、b、c、d)の値 を求めることができます。
たとえば、θ=60°の場合、係数(a、b、c、d)の値は、
1 | 0.5 |
0.5 | 1 |
になります(cos60° = 0.5)。いいかえると
θ=60°であれば、どんな三角形でも、必ず、
1・ A・A + 0.5・ A・B + 0.5・ B・A + 1・ B・B = C2
が成り立ちつのです。(┓゜A゜)┓
ウソだと思う方は、適当に自分で三角形の絵をかいて確かめてみてください。
必ずそうなります。
自分で確かめたくない方は・・・
信じてもらうしかありません(苦笑)。
これがわかってくると、逆に、
1・ A・A + 0.5・ A・B + 0.5・ B・A + 1・ B・B = C2
という式、あるいは、
1 | 0.5 |
0.5 | 1 |
という係数をみただけで、どんな三角形の話をしているのか、わかるようになります。
たとえば係数(a、b、c、d)が
1 | 0 |
0 | 1 |
なら、直角三角形(∠AB = 90°)の話をしています。
その証拠に、この係数を使って三平方の定理「上級バージョン」の式を展開すると・・・
と、みなさんが学校で習った三平方の定理になります。
つまり、みなさんが学校で習った三平方の定理は、三平方の定理「上級バージョン」
a・ A・A + b・ A・B + c・ B・A + d・ B・B = C2
の特殊例にすぎないのです。 d(´ー`*)!
ーーーーー ーーーーー ーーーーー
さて・・・
ここで、ちょっとだけ頭を切りかえましょう。
今まで、三角形で話をすすめてきましたけど、
三角形をベクトルに置き換えます。
よ~くみると、三角形の辺Aと辺Bの長さって、ベクトル C の成分と考えることができますよね?
そう考えると、
A2 + B2 = C2
という式は、
ベクトルの成分と大きさの関係をあらわしている
とも、いえるのではないでしょうか。
・・・ですよね?
すると・・・
今のあなたなら
座標が直交していないときにでも、同じような式が成り立つのでは?
と思いませんか?
たとえば、座標が直交していないときにでも、係数(a、b、c、d)をうまく選べば、次の式が成り立つんじゃないでしょうか・・・?
a・A・A + b・ A・B + c・ B・A + d・ B・B = C2
(A,Bはベクトルの成分、Cはベクトルの大きさ)
数学者もそう考えました。
下の図をよーく見てください。
三角形ABCの外角「θ」と、x軸とy軸が交差する角度「θ」は同じですよね?
(ここがこの記事で最もむずかしいところかもしれません)
ここがみえると、三角形のときとまったく同じ話をしていることがわかると思います。
グラフのx軸とy軸の角度が「θ」のとき、係数(a、b、c、d)は
1 | cosθ |
cosθ | 1 |
となるのです(注1)。
このように、三平方の定理「上級バージョン」は、斜交座標のベクトルの成分とサイズの間の関係式としても成立します。
そういう意味において、これら4つの係数(a、b、c、d)
a | b |
c | d |
は「座標の歪み」を反映しており、これを計量テンソル the metric tensor といいます。
この4つの係数(a、b、c、d)が座標(の歪み)をあらわしている・・・
ともいえるのです。
(なんで"計量"とか"テンソル"とかいう名前がついているのかは後述します)
慣れてくると、係数(a、b、c、d) の値
a | b |
c | d |
をみただけで、どんな座標の話をしているのか、わかるようになります。
たとえば、係数(a、b、c、d) の値が
1 | 0 |
0 | 1 |
であれば、それは直交座標の話です。
具体例でみていきましょう。
上図で x軸とy軸の角度 θ=60°の場合、計量テンソルは、
1 | 0.5 |
0.5 | 1 |
です。
すると、この座標系では"どんな"ベクトルでも
1・ A・A + 0.5・ A・B + 0.5・ B・A + 1・ B・B = C2
が成り立ちます。
たとえば、x軸とy軸の角度 θ=60°の座標で、下記のようなサイズ5のベクトルを考えてみましょう。
このベクトルの成分を座標から読みとると、 ベクトル(2.14,3.57)であることがわかります。
しかし、いわゆる一般的な三平方の定理(ベクトルの成分と大きさの関係式)は成り立ちません。
(2.14)2 + (3.57)2 ≠ (5)2
ところが・・・
さきほどの計量テンソル
1 | 0.5 |
0.5 | 1 |
を作用させると、
1・(2.14)2 + 0.5・(2.14)・(3.57)+ 0.5・(3.57)・(2.14) +1・(3.57)2 = (5)2
と、見事に式が成立します。
もう一例、直交座標で考えてみましょう。
たとえば、下記のようなベクトル(4,3)のサイズはどうなるでしょうか?
直交座標の計量テンソルは
1 | 0 |
0 | 1 |
です。なのであらゆるベクトルに対して
1・ A・A + 0・ A・B + 0・ B・A + 1・ B・B = C2
が成り立つはずです。
ですので、この(A,B)に(4,3)を代入してみると
1・(4)2 + 0・(4)・(3)+ 0・(3)・(4) +1・(3)2 = C2
すなわち
(4)2 + (3)2 = C2
ゆえに
C = 5
と、直交座標上のベクトル(4,3)のサイズは5であることがわかります。
このように、計量テンソルがわかると、どんな座標でもベクトルの成分からそのサイズを計算することができるようになります(注2)。
ベクトルのサイズを測る
というのは、
2点間の距離(サイズ)を計るーーー計量するーーーことと同じです。
つまり、計量テンソルがわかれば、どんな座標でも 2 点間の距離(サイズ)を計るーーー計量ーーーが可能になるのです。
実は、
このベクトル(4,3)@ θ = 90°
と、
前述したベクトル(3.57,2.14)@ θ = 60°
は、
成分としての表示が違ってみえますが、
全く同じベクトルです。
同様に・・・
斜交座標( θ=60° )の計量テンソル
1 | 0.5 |
0.5 | 1 |
と、
直交座標( θ=90° ) の計量テンソル
1 | 0 |
0 | 1 |
も、違ってみえますが、実は両方とも
1 | cosθ |
cosθ | 1 |
という同じテンソルだといえます(ここはちょっと異論がある専門家もいるかも・・・)。
いずれにしろ、
ベクトルも計量テンソルも、座標変換に応じて自動的にその成分が変換され・・・
結局、以下の式はいつでも成り立つ
といえます。
ーーーーー ーーーーー ーーーーー
計量テンソルは"2点間の距離"を正しく測定する(どんな座標系においても三平方の定理を成り立たせる)ために欠かせない数字のセットです。
どんなベクトルがどんな座標であらわされていても、計量テンソルさえわかれば、そのベクトルの成分からベクトルの大きさ(2点間の距離)を計算することができます。
だから"計量"という言葉がついています。
しかも・・・
計量テンソルは、テンソルという名前がついているだけあって「テンソル」という"座標変換に耐える形式"になっているところがすごいところです。
なぜ「テンソル」だとすごいのか?・・・
テンソルについては → こちら
最後に、計量テンソルがもっている大切な性質を2つだけ述べておきたいと思います。
1.ベクトルに計量テンソルを作用させる(掛け合わせる)と、必ず元のベクトルになる(ベクトルを動かさない!)という驚くべき性質があります(注3)。
数字でいうと「1」みたいなものです。
2.計量テンソルは「内積」と深く関係しています(もともと「内積」は三平方の定理と深い関係があります)。
ここではその詳細を省きますが、計量テンソルを使うと「内積」の上級バージョンを考えることができます(注4)。
ベクトル(A, B)とベクトル(C, D)の内積
これが「内積」の上級バージョンです。
このように二つのベクトルの間に計量テンソルを挟み込むことによって、「内積」の結果をどんな座標系でも計算できるようになるのです。
内積の値が、直交座標でも斜交座標でも同じ値に保たれます。
これは実にすごいことです。
どれほどすごいかというと・・・
数学の世界では
「内積」= 定数
という式で、直線や平面をあらわします。
たとえば、みなさんが中学や高校で習った直線や平面の式はすべて
「内積」= 定数
という式にまとめられます。
つまり・・・「内積」の上級バージョンを使うと、直線や平面の式をどんな座標系でもあらわせるようになのです。
リンク:アインシュタインの一般相対性理論
注1:この記事は、基底のサイズが常に「1」である場合を考えています。しかし、もちろん、基底のサイズは常に「1」である必要はありません。
たとえば、基底のサイズが「√2」の直交座標では、その座標の計量テンソルは、
2 | 0 |
0 | 2 |
とあらわされます。これに座標軸の偏位が加わり、たとえば、x軸が+30度、y軸が-30度偏位した場合は(基底のサイズは「√2」とする)、その座標の計量テンソルは、
2 | √3 |
√3 | 2 |
とあらわされます(いわゆるローレンツ変換をうけたような座標です・・・)。
あるいは、極座標という座標系では
1 | 0 |
0 | r2 |
みたいな計量テンソルになります(極座標について少し知りたい人は ⇒ こちら)。
注2:たとえば、以下のような極座標基底を考えてみましょう。
この基底がある場所は(r,θ)=(2,π/6)ですから、この場所の計量テンソルは、
1 | 0 |
0 | 4 |
です(極座標の計量テンソルについては別途、学習してください)。
この極座標基底をつかって、ひとつ下記のようなベクトルのサイズを計ってみましょう。
計測してみるとベクトルの成分は(4.964,0.299)でした。
すると、このベクトルのサイズはいくつでしょうか?
この記事を読まれた方には簡単ですよね。
ふつうの三平方の定理ではダメ、三平方の定理「上級バージョン」を使います。
結果、このベクトルのサイズは「5」であることがわかります。
実は、このベクトルは正規直交座標でみればなんのことはないベクトル(4,3)です。
こんな正規直交座標であれば、ふつうの三平方の定理を使ってベクトルの大きさが「5」であることを計算できます。
しかし、それが極座標で表示されていると、一見、わかりにくいですよね。
それでも、計量テンソルを用いればサイズを計算できる、という話です。
極座標に限りません。
この記事を読まれたみなさんは、どんな座標でも、計量テンソル(ベクトルの起点における計量テンソル)さえわかれば、ベクトルの成分からベクトルの大きさを計算することができるはずです。
注3:斜交座標をあらわす計量テンソルにベクトルを作用させる(掛け合わせる)と、ベクトルの成分表示は変化してしまいます(変化したようにみえます)。しかし、それはベクトル表示の形式が(反変表示から共変表示に、あるいは共変表示が反変表示に)変わっただけであり、ベクトルそのものが変わったわけではありません。
共変ベクトル・反変ベクトルについては → こちら
注4:計量テンソルを挟み込む「内積の上級バージョン」は、一方のベクトル表示を反変表示 ⇒ 共変表示に変換、あるいは共変表示 ⇒ 反変表示に変換すれば、高校数学で教わったふつうの(ただの成分同士を掛け合わせ合算する)内積と同じになります。
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コメント
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中2です滅茶苦茶分かり易いです
ありがとうございます!
投稿: | 2022年1月 9日 (日) 16時45分
こちらこそコメントありがとうございます。励みになります。
投稿: 管理人 | 2022年1月13日 (木) 03時00分
管理人様、本当に勉強の助けになっております。ありがとうございますm(_ _)m
投稿: | 2022年11月25日 (金) 07時43分